「予想外」があるから台湾生活は面白い―引っ越しが延期→中止になったの巻―

 引っ越しというのは、台湾生活では避けては通れない問題です。というのも、台湾の賃貸はオーナーの力が圧倒的に強く、オーナー都合で引っ越しを余儀なくされることがあるからです。私は前回の住まいは、オーナーが「内装を工事する」との理由で契約更新することができず、新たな家を探さないといけないはめになりました。

 前回の引っ越しから3年半余り。他者都合で再び引っ越しを余儀なくされ、新居の契約まで済ませたものの、延期を経て、突如、引っ越ししなくてよくなるという、なんともびっくりな出来事があったので、話は長くなりますが聞いてください。

ある日突然告げられた「引っ越し勧告」

 今の部屋は立地がよく、部屋の広さ、採光ともに十分かつ、私が必須条件としているバスタブ、キッチン付で、家賃もそこそこと、とても気に入っていました。

 この部屋は獨立套房(日本の一般的な単身用物件と同様、住所が独立した部屋)ではなく、ルームシェア形式で住んでいます。3LDKの部屋を、3人家族(夫妻と5歳の子供)と私でシェアする形です。言い方を変えれば間借りです。私の部屋にはトイレ、バスタブがあり、リビングにもう一つある浴室をルームメイト家族が使っています。キッチンやベランダは共用です。

 ルームメイト夫妻がホトケのようないい人なので、これまで揉め事は一切なく、平和に暮らしてきました。そして、先ほども書いたように、部屋自体を気に入っていたので、可能な限りここに住み続けたいと思っていました。

 しかし、幸せは永遠には続きません。ある日突然、ルームメイト夫妻から「8月に家族でカナダに行くから、それまでに新しい部屋を探して」と勧告されてしまったのです。カナダ行きについては、実は昨年、当時4歳だったルームメイトの子供から、「来年の夏にカナダに行くんだ!kuroqieお姉ちゃんも一緒に行く?」と無邪気に誘われていたので、てっきり旅行だと思っていたのですが、そうではなくて、2年間親子留学するという話でした。
 
 これを伝えられたのが確か5月下旬。ただ、みなさんご存じのように、この時はすでに新型コロナウイルスのパンデミックが発生しており、各国で国境が封鎖されている状態でした。もちろんカナダも例外ではありません。そのため「でも8月までに国境が開放されないかもしれない。その場合は渡航を延期するから、このまま住み続ける。kuroqieも住み続けていい」とも言われました。

 私は国境が開放されない可能性が高いと考え、この時は参考程度に賃貸サイトを開いてみただけで、真剣には部屋探しをしていませんでした。また、ルームメイトの親戚が台北郊外にマンションを所有しており、もし渡航が急遽決まったら、私の新居が見つかるまでそこに短期で住んでもいいという言葉ももらっていたので、余裕綽々でいたのです。

話が違うじゃないか

 カナダ政府は6月末、それまで6月30日までとしていた国境封鎖の期限を、7月末まで延長すると発表しました。1カ月という小刻みな期間での延長だっため、ルームメイト夫妻は8月に国境が開放されることを期待し、本格的な渡航準備、荷造りを始めたのです。こうなったら私も新居について真剣に考えなければなりません。今の家に住めなくなったら、帰る場所がなくなってしまいます。

 事態が動いたのは7月中旬のこと。あてにしていたルームメイト親戚のマンションについて新事実が発覚し、自力で別の部屋を探さないといけないことになってしまったのです。

 前述した通り、ルームメイトからはこの部屋について「短期可」との情報をもらっており、契約する気を満々で7月中旬の週末、ルームメイトと一緒に内見に行きました。この部屋はキッチンがないので、長期的に住むのは難しいと思っていたのですが、新居を探すまでの1、2カ月なら辛抱できるからまあここでいいやと考えていました。そして、契約する前提で詳細を聞いていたところ、契約期間について「短期はダメ。少なくとも半年、できれば1年」との条件が突きつけられたのです。話が違うじゃないか。後でルームメイトに聞いた話だと、ルームメイトは以前そこに住んでいたことがあり、その際は短期でも良かったために、きちんと確認していなかったとのこと。「ちゃんと聞いといてよ!」とは思いましたが、紹介してくれて、さらにわざわざ一緒に見に来てくれるだけで本当にありがたいので、文句は言いませんでした。帰り道でかき氷を食べようということになり、本来ならば私が皆さんにごちそうすべきなのに、「いやいやいいから」と頑なに断られ、結局お言葉に甘えて私がごちそうになってしまいました。

 ちょっと脇道にそれてしまいましたが、本題に戻ります。この部屋に住むか住まないか、しばらく考えましたが、やはり半年以上住むのは難しいとの結論に至り、他を当たることにしました。

 これが7月15日のこと。ルームメイトは8月3日出発の航空券を買ったとのことなので、タイムリミットまであと2週間ほどしかありません。大ピンチです。

 その日の夜から、不動産情報サイト「591」を開いてしらみつぶしに物件を探しはじめました。過去記事「台湾ドラマ『時をかける愛』(想見你)に見る台北の住宅事情」でも書いたのですが、私が求めるバスタブ、キッチン付きで1万元台の部屋は台北首都圏では稀少なのです。しばらく探したところ、1件だけ、私の条件を満たす物件を見つけました。家賃は今よりも高いですが、許容範囲内ではありました。

 その物件を次の日の夜に見に行き、借りることで口頭合意に達したのがその週の半ばごろ。その次の月曜に契約を交わし、預り金として家賃の1ヶ月分を支払いました。

無事見つかった新居 なのに「入居延期して」

 この時点では、「8月1日に入居」ということで話が進んでいたのですが、契約を済ませて数日後、「入居日を先延ばしできないか」という申し出が先方からあったのです。前提として説明しておくと、8月1日入居というのは私が物件探しの際に提示していた条件でもあると同時に、先方も説明時に「8月1日から契約してね」と念を押していた条件だったのです。

 この部屋も実はルームシェア形式で、3人で借りているうちの1人が出ていくために、その代わりの入居者を探していたのでした。入居延期の申し出は、この元の入居者に起因するものです。新居の内装が8月1日までに終わらないから、新居が完成するまで住み続けたいということでした。

 この時は7月20何日かです。私は当初は8月1日に引っ越すということで契約したのですが、この時点でカナダ政府は依然として8月1日以降の規制について発表しておらず、ここまで発表を引き伸ばしにしているならば、解禁の可能性は低いだろうと踏んでいました。そのため「ルームメイトの渡航が延期になったら引っ越しも延期していい。でも予定通り渡航することになったら、8月2日までに引っ越す」との条件を提示し、延期に同意しました。

 そして8月1日、カナダ政府の規制延長発表に伴い、ルームメイト一家の渡航延期が確定。引っ越しを延期してもいいことを元の入居者に伝えた後、両者が互いに譲歩する形で、私の入居日は9月中旬の某日に決まりました。

アクロバティックな展開で引っ越し「中止」に

 状況がさらに急展開を迎えたのが8月末。現ルームメイトから「渡航は来年8月になった。もしよかったら、(引っ越し予定先に払った)預り金は自分たちが負担するから、引っ越しをやめてここに住み続けない?」と私が考えてみたこともなかった提案を唐突にされたのです。

 私にとっては、引っ越し予定先より今の部屋のほうが断然条件がいいので、今の部屋に住み続けられるなら、それに越したことはありません。現ルームメイトにとっても、私が引っ越すとその分、家賃支払いの負担が増えることになり、新たなルームメイトを探すにしても容易ではありません。引っ越さない選択は、私とルームメイトにとってはウインウインなのです。

 しかし、一旦した契約を反故にするのは、引っ越し先の人に申し訳なさすぎます。「引っ越しやめます」と自分で伝える勇気はありません。といった内容をルームメイト夫妻に伝えると、ルームメイト夫は「交渉は全部こっちでするから」と。その後、私抜きで両者間での話し合いが行われ、私は引っ越ししないということで合意に至りました。お金についてはやや揉めたらしいですが、「こっちで処理するから大丈夫」と強調されました。

 そしてその翌日、引っ越し予定だったマンションを菓子折り持参で訪れ、契約時に預かっていた鍵を返却するとともに、私が新居にすでに置かせてもらっていた新品マットレスを持ち帰ったのでした。「何か言われるかな」「冷たくされるかな」とドキドキしつつ訪問したのですが、対応してくれたのが契約相手とは別の同居人だっため、特にとがめられることもなく、あっさりとやり取りは終了しました。良かった。

 かなり長くなりましたが、これが今回の引っ越し騒動の一部始終です。文章で振り返ってみると、ルームメイトに振り回された感がありますが、結果オーライなので問題ないです。

「想定外」があるから台湾生活は面白い

 今回のように、アクロバティックに力技で状況を有利に持っていこうとする感覚って、日本人にはなかなか無いように思います。「契約しちゃったから仕方ないね」で終わることが多いのではないでしょうか。

 こういう、自分では想像もしなかった展開が待ち受けているのは、私にとっては台湾での生活の面白さの一つです。このダイナミズムにワクワクします。台湾の人はすごいな〜と笑えてきます。

 実際問題として、急遽家を探さないといけなくなった時や延期の申し出をされた時は、「おいおい」とは思うのですが、台湾で暮らしていく中で、対人関係においては、基本的には「仕方ない」で済ませられるように精神が鍛えられたように思います(仕事や行政などの場合は別です)。

 私がもうすぐ9年になる在台生活で学んだのは、「自分の権益が損なわれないようにちゃんと主張する」「意思疎通をして、自分が納得できる妥協点を探る」ということの重要性です。不満があるんだったらきちんと言わないとダメ。口に出してみると、意外にも簡単に解決することや自分の希望が叶うことはわりと多いと感じています。

 台湾のこういう、悪く言えばルーズで適当、よく言えば臨機応変な部分は、嫌いな人もいると思うのですが、私は嫌いじゃないです。この度胸と柔軟性は見習いたいです。

あとがき

 引っ越ししなくてよくなったのはうれしいのですが、私には負の遺産が残ってしまいました。それは「マットレス」。引っ越し予定だった部屋にはベッドがないので、狙っていた商品が若干安くなっていたのもあって、早々に買ってしまっていたのです。布団のように折りたたみができるタイプのものなので、いちおう今の部屋にも置いておけるのですが、邪魔です。一方で、機能性が高いと謳われている商品なので、今のベッドの上に敷いて自分で使っても良さそうだとも思います。

 譲り先を探すか、とっておいて自分で使うか、非常に悩むところです。

アイキャッチはNina GarmanによるPixabayからの画像です。

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