台湾企業勤務歴8年の日本人が思う「台湾の会社・ビジネス社会のここが面白い」6つのこと

台湾企業勤務歴8年の日本人が思う「台湾の会社・ビジネス社会のここが面白い」

私は台北の台湾現地企業に勤務して8年、今年で9年目になります。日本でも新卒で3年働いたことがあるのですが、台湾で働き始めて、日本の企業と台湾の企業の文化的な違いに気付きました。

そこで、私が思う台湾企業や台湾のビジネス社会の興味深い点についていくつか紹介したいと思います。

知っておいてほしいこと

これは私が働く環境で感じたことなので、会社や業界によっては異なる場合があります。あくまでも私個人の見解として捉えていただければ嬉しいです。(ちなみに私の会社は情報通信業で、台湾では今在籍している1社しか勤務していません)

①「食」が何より大事

私が思う日本と台湾のビジネス社会の一番の大きな違いは「食事を重視する姿勢」です。

台湾で働いていると、みんながどれほど食を重視しているのかがよく分かります。

感じるのは「みんなのお腹を満たすことで気持ちよく働いでもらおう」という精神です。

例えば、「尾牙」と呼ばれる会社主催の忘年会。これは旧正月前に開かれるイベントで、会社がお金を出して宴会を開きます。私の会社は300〜400人規模なのですが、尾牙では社員を一堂に集め、貸し切りの宴会会場で円卓で中華のコースが振舞われます。メニューの豪華さは会社の懐具合によって変わるのですが、通常はあまり普段自分では食べない比較的高級な料理が出されます。料理に加え、航空券やiPhone、現金などが当たるくじ引きや余興も行われます。

尾牙恒例のくじ引きで当たった賞金
尾牙で出てきた料理の一部。これ、宴会料理でしか食べたことなのですが、肉まん的な生地に塩気が効いたハムとサクサクの揚げたやつを挟んで食べるメニューで、お気に入りです。

私の印象では、日本の会社の忘年会って基本的に部署単位で開かれ、費用は会社持ちではないことが一般的な気がします。

そして、忘年会という大きなイベントの他にも、普段の日常でも、上司が何かのタイミングでスイーツやドリンクを差し入れてくれることがよくあります。私の部署の場合は、誰かが辞める際には公費で社内でのピザパーティーが開かれます。別部署の仕事をお手伝いした時にはドリンクを差し入れてもらうことも。職場のお姉さまやお兄さまから果物や食べ物をおすそ分けしてもらうこともちょいちょいあります。

先日、会社の幹部から差し入れてもらった紅豆湯

日本の会社でも差し入れはありましたが、来客があった時やお土産など、わりとかっちりしたものが多かったように思います。

社内だけでなく、社外の場でも「食を重視する姿勢」を感じます。

私は仕事の関係で、同業者が集まるイベントに参加することがたまにあるのですが、その時には主催者の「食」でのおもてなしを受けることが多々あります。台湾で私が働く業界は日本にいた時とは違うのですが、日本でも同様の性質のイベントに関わっていました。(都合上、ぼんやりとした書き方にとどめざるを得ず、わかりにくくてすみません)

日本では主催者をサポートする立場でいろいろな会社のイベントに関わっていたのですが、日本の場合、私が覚えている範囲では参加者にケータリングの食事を出していたことはほぼ皆無。たまにお土産を配布していた程度です。

台湾の場合(参加者側で関与)は、新型コロナウイルス後は変わってしまったのですが、以前は高確率で会場にケータリングの飲み物や食べ物が用意されていました。特に会場が高級ホテルの場合は軽食がめちゃくちゃ美味しかったりして、イベントに参加するときの楽しみの一つにしていたほどでした(もちろんちゃんと仕事もしてます笑。ちなみに私的にケータリングが特に美味しかったホテルはマンダリンオリエンタルとパレ・デ・シン)。反対に、食事が出ることがほぼ当たり前になっているので、食事が出なかったり、ちょっと内容がしょぼかったりすると、参加者から不満が出ることも。台湾の皆さん、ビジネスの場でも食への要求が厳しいんだなとちょっとほほえましい気分になります。

食は関係を良好にするコミュニケーションツールであると同時に、ビジネスの場では自社の財力や余裕、太っ腹度合いと参加者をどれほど重視しているかを示す象徴的な意味合いを持っているように感じます。

②勤務時間終了後は即退勤

ここはもしかしたら会社によって違うかもしれないのですが、私が勤務する会社の人たちは、仕事は仕事、プライベートはプライベートというように分けている雰囲気があります。退勤時間が来たら、(仕事が残っている場合を除いては)だらだらせずに即退勤し、みんなそれぞれ自分のプライベートの時間を大切にしている印象です。私が日本で勤務していた会社は、会社の人との飲み会がちょいちょいあったのですが(私がお酒好きかつ、会社の先輩や上司と飲む時はほぼお金を払わなくていいということもあって少なくとも週1〜2回は飲み会に参加していた気がします)、今の会社で同僚と飲み会をしたことは「ゼロ」。他社の人との交流や用事の帰りに飲みや食事をしたことは何回かあるのですが、単純に同じ部署の同僚との親睦を目的に飲み会をしたことは一度もありません。

これだけ聞くと、「仲悪いんじゃ」とか「嫌われてるだけなんじゃ」と思われるかもしれませんが、部署の同僚や上司との関係はいたって良好。仕事中には雑談もするし、わりと和気藹々としていると思います。

入ったばかりの時は正直、日本の職場とコミュニケーションの面で環境が全く違うことに寂しさを感じたこともあったのですが、わりとすぐに慣れて、今ではこれがごく普通になっています。むしろ、生活がキッチリと分けられるので快適です。

ただ、台湾の会社で仕事中は完全に公私混同をしていないかといえばそうでもなく、ごくごく一部ではありますが、デスクでプライベートの電話をしている人もいます。

③みんなに利益があることはチャカチャカ進む

私の勤務する会社は性質的には比較的固いので、融通はそんなにきかないのですが、「めちゃくちゃ融通きくやん」と思ったことがあります。

一例を挙げると、エレベーターの改修工事が行われることになった時のこと。

会社には2台のエレベーターがあって、1台ずつ工事を行うことになったのですが、1台だけだと朝は混雑してしまいます。当時、打刻は自分のデスクもしくは部署の共有PCで行うシステムだったのですが、エレベーターの混雑で出勤時刻に間に合わない人が出てくることを考慮してなんと、1階のエレベーター横に打刻用PCが急遽設置されることになったのでした。私は時間ギリギリに出勤しがちな人なので、この措置は非常に助かりました。

私個人の人事手続きというような、特定の人にしか関係がないことは進展がかなりゆっくりなのですが、多くの人が目下必要としていてメリットがあることについては、かなりスピーディーに事が進みます。現実的というか、実利主義というか、そんな性質を感じます。

④あいさつをしない

これは今でも慣れないことの一つです。日本では子供の頃から「あいさつをしましょう」と教えられてきたし、会社でも、社内で誰かに会ったら、知らない人でもとりあえず「お疲れ様です」と挨拶をしなさいと指導されてきました。

しかし、台湾に来て気付いたのは「みんなあまりあいさつをしない??」ということ。

会社の他の人の様子を見回してみると、顔見知りにはあいさつをするけど、交流がない人にはあいさつをしないといった感じです。

会社に入ってすぐに気付いたのですが、中国語には「社内の知らない人にあった時に声をかけるのに相応しい言葉がない」ということ。

「你好」は硬すぎるし、「辛苦了」もちょっと違う。かといって知らない人に「哈囉」も軽すぎる。日本語の「お疲れ様」って、めちゃくちゃ便利な言葉だと思います。

あいさつをしないので、積極性がないと社内の人との交流は全く広がらないのですが、コミュニケーションが生まれる場は給湯室とエレベーター。給湯室で何かしていると、知らない人から突然声をかけられたり、ちょっとお裾分けをもらったりします。日本人の場合はあいさつをコミュニケーションのきっかけにするけれど、台湾の人の場合はまず相手に興味を持つことがコミュニケーションのきっかけで、あいさつは交流が生まれた後にするものという捉え方なのかなと推察しています。

あいさつについて考えていてもう一つ思い出しました。それは、会社の偉い人に会っても必ずしもあいさつをするわけではないということです。

会社のナンバー2の人と給湯室で遭遇した時のこと。私はちょっと離れたところにいたのですが、給湯器で水を汲んでいる女性の横にナンバー2が来ても、女性は特にあいさつをすることなく、そのまま水を汲み続け、逆にナンバー2から「最近どうだい?」的なことを話しかけていました。

私は偉い人が来ると「あいさつしなきゃ!」と焦ってしまうのですが、他の人の様子を見ているとそうでもない模様。「あいさつ」に関しては今でも戸惑う部分です。

余談ですが、台湾で会社員生活をしていると、上の立場の人が下の人を気遣う雰囲気が強いなと感じます。逆にいえば、下の立場の人がめちゃくちゃ堂々としています。そういえば、つい先日、隣の部署の人が急遽休みになったようで、部長が別の人に「今日の出勤時間、ちょっと早められない?」と電話をかけていたのですが、ソッコーで断られていました。その後その部長が他の人と「昨日遅番だったから、たぶん今日はゆっくりしたいんだろうね」と話していたので、断った社員は断った時に特に理由も話していない模様。日本人だったら、上の人の要望は断りにくいし、断るにしても何かと理由をつける人が多そうだと感じるので、この堂々とした姿勢はすごい!と感銘を受けたのでした。

⑤意外と忖度する

「忖度」って日本独特の文化のようにも思えますが、台湾人も意外と忖度しているというか、暗黙のルールがあるという点も働き始めてから気付いたことです。

社内の場合、「本当は必要ないんだけど、上の人から要求される場合があるから、後で面倒なことにならないようにとりあえずやっておこう」ということがちょくちょく発生しています。だいぶ非効率的なのですが、社内での処世術としては仕方ない模様。これは会社によって違うと思うのですが、私の会社の場合はトップダウンの風潮が色濃くあります。

同業他社の人との間でも「暗黙のルール」が存在します。同じ場に集まる時はベテラン優先。業界内で力が強い人が優先され、時には主催者ではなく、ベテランがイベントを取り仕切る立場になる場合もあります。例えば席順を決める時、形式的には先着となっていても、暗黙の了解でベテランや有力社にあらかじめ良い席が割り当てられていたり、くじ引きの場合でもベテランが主導して他社の座席をおおまかに割り振っていたりということがあります(※席順によって、仕事の完成物の質やその場での動きやすさが変わるのです)。「公平・公正」というよりも、見えない序列によってその場が支配されがちなので、閉鎖的というか、じめっとした人間関係を感じます。

あるイベントで、通常は席順は先着順なのですが、珍しく私の会社にあらかじめ席が事前に用意されていたことがありました。その時、同じ会社の台湾人の女の子は「主催者側と仲良くしてたから掛け合ってみたの」と嬉々として語っていました。ちなみにその子は関係作りが得意な子なので、別のイベントでその子がいない時、その場を取り仕切るベテランから「あの子は今日はいないの?」と聞かれることも。仲良くなるといろいろ配慮してもらえるからお得だなと思ったのでした。

⑥コネクションが物を言う

前述の項目とやや被るのですが、台湾社会は結局「コネクションが物を言う」と常々感じます。

会社だと、お偉いさんのお友達が入社していきなり高めのポジションに就くこともあるし、人材募集でも、もちろん公募もするけれど、知り合いにまず声をかけるケースも多々あります。

実を言うと、私も今の会社には知り合いに声をかけてもらって入りました(もちろん、試験も面接も受けました)。

比較的ニッチな仕事の場合、人材探しは大変なので、知り合い経由だとその人となりがある程度わかって安心ではあるのですが、コネクションを優先してしまうと、馴れ合いが生まれやすかったり、優秀な人材に出会う新たなきっかけを逃しやすかったりというデメリットもあるなと思います。

私は以前、台北の大学院に通っていたのですが、入学当初のプレゼンテーションで同級生たちが大学院での目標の一つに「人脈作り」と挙げていたことがとても印象に残っています。当時は「みんな意識高いな」くらいにしか思っていなかったのですが、働き始めてみると、なぜみんな人脈を大切にしていたのか身をもって知りました。私も今でも、大学院時代の同級生から仕事をもらうことが時々あります。

余談ですが、台湾でのFacebookの利用は日本よりも広まるのが早く、今でも18歳以上の使用率が95.4%に達する(参照)ほど広く普及しています。この背景には、コネクションを大切にする意識の強さがあるのではないかなと思っています。

以上、私が思う台湾と日本の職場・ビジネス文化の違いと興味深い点でした。

台湾在住日本人の方々のツイッターを見ていると、その人がいる環境によって台湾社会の見え方は全然違うんだなと思うことが多々あります。私の環境では上記のような感じ方をしましたが、他の環境にいる人だともしかしたらまた異なる捉え方があるかもしれません。「いや、私の会社・業界はこんなだよ!」というのがあれば教えていただければうれしいです。

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