台湾のコロナ抑制で感じた政府対応への「信頼感」の重要さ 台湾から見た世界

 天才デジタル大臣として日本で一躍注目されたオードリー・タン(唐鳳)行政院政務委員(無任所大臣)は、台湾の新型コロナウイルス対策に関するBBCのインタビューを引用し、自身のツイッターでこうつぶやいた。

How did democratic #Taiwan combat #Coronavirus?
(民主主義の台湾はいかにしてコロナに対抗したのか?)

Soap, hand sanitizer, #CivicTech & plenty of trust
(石けん、手指用消毒液、シビック・テック、そしてたくさんの信頼)

オードリー・タン氏ツイッターアカウント@audreyt、8月4日投稿 日本語訳は筆者が加筆

 私は、タン氏が言う「たくさんの信頼」に激しく同意する。実際に台湾で生活する者として、コロナ対策をまとめる陳時中衛生福利部長(衛生相)のような求心力のある人物の存在と、そこから生まれる政府対応への「信頼感」こそが、台湾のコロナ封じ込めに大きな役割を果たしたのではないかと考える。

台湾のコロナ感染状況の現状

 台湾では4月12日を最後に、渡航歴がない人の感染は確認されていない。ただ今月1日、台湾に2カ月近く滞在していたベルギー人男性の感染が確認され、台湾でも市中で感染が広まっている可能性が浮上しているため、まだ油断は禁物だ。とは言っても、6月7日に関連の規制が大幅に緩和されて以降、日常をほぼ取り戻している。

 メトロやバスなどの公共交通機関を利用する際のマスク着用義務は継続されているが、その他の場所では着用があまり厳しく求められなくなった。

参考 台湾のコロナ患者7人増 1人は入境後に感染か 6人は輸入症例中央社フォーカス台湾

台湾に住む私のこの数カ月間の感覚

 1月下旬、ちょうど旧正月休みが始まる直前にドラッグストアにマスクを買いに駆け込んだのをよく覚えている。台湾で初の感染者が確認されたのは1月22日のことだった。台湾では、それから4月中旬くらいまでは警戒感があったように思うが、4月中旬以降は渡航歴のない感染例が確認されなくなったのもあって次第に緊張感が解けていった。6月7日に規制が大幅に緩和されて以降は、マスク着用やビル入館時の検温を除き、コロナ前とほぼ変わらない生活を送れている。私が在籍する会社でも、5月くらいまでは就業時にマスクをしている人が多数いたが、今ではマスクをしている人はごく少数だ。

参考 新型肺炎 台湾初確認の患者、状態安定 感染疑い12人が検査中中央社フォーカス台湾

別世界のような錯覚

 台湾ではコロナ前とほぼ変わらない平穏な生活を送れている中、国際ニュースで新規感染何百人、死者何万人という数字を目にすると、どこか別の世界の出来事のように思えてしまう。台湾だけが世界と隔絶されているような感覚を覚える。

 私は、当時はまだコロナの中心地が中国だった時の旧正月、ウイルス感染を題材にしたハリウッド映画「コンテイジョン」を見た。ある種の現実味を感じつつも、やはり「映画の世界の出来事」だと認識していた。今、私が世界に対して抱く感覚も、これに近いものがある。とにかく、実感がわかないのだ。

 それは、台湾が最近は外国人の受け入れを徐々に再開しているとはいえ、未だに半鎖国状態が続いており、海外との往来が少ないのが一因でもあるように思う。

 でも実感がない半面、感染者や死者数の統計、各国で設けられている各種制限などを知ると、「台湾に今現在いられることは、すごく幸運で、有難いこと」だと心から思う。

国民のために涙を流せる指揮官の存在

 コロナ対策の指揮センターの指揮官を務めた陳時中指揮官(私は親しみを込めて、ときなかさんと呼ばせていただいている)をはじめとした担当機関の人々には、本当に感謝しかない。

 特に、国民から絶大な支持を集める時中さんの存在は、私に「台湾には、こんなに国民のことを考えている政治家もいたのか」と感じさせた。

 武漢からのチャーター機が到着した後の2月4日夜の対策本部記者会見で、時中部長は帰国者の一人に感染が確認されたことを発表する際、こらえきれない様子で涙を流した。

 台湾メディアの報道によれば、チャーター機の手配を巡っては、搭乗者リストと実際の搭乗者が異なっていたり、感染確認された人がリストには載っていなかったりと、台湾側が思うように手配をできなかった状況が伺える。時中部長は、朝から夜まで、対応に追われていたという。

 私はこの涙は、悔しさの涙だったのではないかと推察している。感染者を流入させたくないのに、完全にはコントロールできないという悔しさ。

 この涙は時中部長の求心力を飛躍的に高めた。私は、台湾のコロナ対策を(少なくとも現時点で)成功に導いた一番の功労者は時中部長に他ならないと思っている。

 国民のために涙を流せる時中さんの言うことだから信じようと思ったし、時中さんのためにも、しっかりと感染対策をしようとも思った。1月下旬に指揮官に就任してから、規制が緩和された6月上旬まで、毎日毎日記者会見に出ている姿を見て、安心感を覚えると同時に「ちゃんと休んで」と心配にもなった。そして、感染が落ち着いてからは、地方の観光PRに引っ張り出されることも多く、「時中さんをそんなに働かせないで」と地方政府に不満を感じたりもした。

 なんだか時中さんへのラブレターみたいになってしまったが、本当に時中部長みたいな人が指揮官でよかった。そして、時中さんが対策を指揮する台湾にいられて本当によかった。

 その半面、「わが母国の中央政府にも時中さんのような政治家がいれば…」と虚しさを感じざるを得ない。

日本に足りないのは…

 実際に自分が日本にいないため、日本に住む人々の実感は正確にはわからないのだが、私が報道で情報を追う限りでは、現在の日本政府には「信頼」できる人がいない。誰を信じれば良いのか分からない。そして、「本当に感染を抑えようとする気があるのか」とさえ疑いたくなってしまう。

 GoToに関しても、地方自治体の首長が中央を公然と批判していた。全体的にばらばらで、足並みが揃っていない印象だ。一丸となってコロナに立ち向かうには、時中部長のような、求心力がある人物の存在が不可欠だと感じる。

 日本には大切な家族や友人がいるから、本当に心配でならない。

 なにはともあれ、世界の感染状況が一刻も早く落ち着くことを切に願う。次に日本に帰れるのはいつになることか。

参考・関連資料

 本記事の参考資料、関連情報を示しておきます。

オードリー・タン氏のツイート(8月4日)

台商包機武漢肺炎確診病例 徐正文:不在原名單內/中央社2月5日付

アイキャッチ画像はcromaconceptovisualによるPixabayからの画像です。

4 COMMENTS

メイフェ

私もときなかさん(笑)の大大大ファンです。
私もブログで何回かときなかさんの貢献を日本の多くの方に知ってほしくて書きました!

そしてこの涙の会見で私ももらい泣き・・・
時には少しやつれたお顔を拝見してはもらい泣き。
毎日定例記者会見をライブで見ながら、kuroqieさんと同様、休んでください!倒れないで!って
ずっと思っていました。
台中で売られている「ときなかさんアンパンマン」のアンパンも応援のためにたくさん食べました!

本当にときなかさんを中心に頑張ってくださっている台湾の皆さんに感謝しかありません。

二次感染が少し心配されて台中ではまたマスク着用強化です。
でもそんなことになってはときなかさんに申し訳ないので、
真面目にマスクをしています!

信頼できるリーダーがどんなに心の支えになり癒しになるか・・・
母国にもそうであって欲しい・・・って思いますよね。

返信する
kuroqie

メイフェさんも!!!

>台中で売られている「ときなかさんアンパンマン」のアンパンも応援のためにたくさん食べました!

こんな商品があったんですね!台北で売ってあったら私も買ってました(笑)

>二次感染が少し心配されて台中ではまたマスク着用強化です。
>でもそんなことになってはときなかさんに申し訳ないので、
>真面目にマスクをしています!

全く同じ気持ちです!ときなかさんに申し訳ないから、気をつけるぞ~!と思います。
もし指揮官がときなかさんじゃなかったら…。もしかしたらもっと気がゆるんでたかもしれません。
リーダーの大切さって、ときなかさんを通じて初めて身にしみて理解したように思います。

きょうも台湾から帰国した日本人と香港人から感染が確認されたようなので、油断禁物ですね。
どうか広まりませんように~!

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おっさん

日本の官僚や地方の政治家に知り合いがいるので良く思うのですが、私の接触している範囲ではみんな見識も能力もあります。ブログとかを見ると中央の政治家でも経験豊富で立派な主張をされている方も大勢いらっしゃるように思います。

国民はそういう人を支える気持ち、もし納得いかなければ選挙を通じて交代させる気持ちがどこまであるかが、台湾と日本の大きな違いのように思います。自分たちが選挙を通じて選んだ政治家のはずなのに、政治は政府 v.s. 国民みたいな善悪二元論的な対立軸で考えがちではないかと思います。

そうではなく、様々な立場の人の調整の場としてとらえ、ただ要求したり、誰かを論破して鼻息を荒くするのではなく、粘り強く関係者の納得を得るように、国民も含めて、みんなが努力をすべきだと私は思います。台湾には少なくとも政府との一体感があるように思います。

まあ、テレビではこんな意見はつまらないでしょうから、永遠にこういう意見が主流を占めることはないかもしれませんが。

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kuroqie

もちろん素晴らしい方もいらっしゃるのだと思いますが、でも実際問題、目立つ地位にいる方からはそれを感じられません。

でもおっしゃるように、政治家を選ぶのは国民。
そういう人を見出して、支持していくことは国民の責任ですよね。
私は台湾に来るまで、というか最近まで、政治には無関心だったので、今の日本の現状を見て、今までの自分をすごく反省しました。

今すぐには変わらないと思いますが、コロナを機に多くの人が政治に対して当事者意識を持ち、みんなで努力していく方向性に向かえばいいなと思います。

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