在台日本人に優先接種?日本が台湾にワクチン寄贈、アンケート結果と私が思うこと

 先日、ツイッター上でこんなアンケートを取った。

 日本政府がアストラゼネカ製ワクチン124万回分を無償提供したことに関連して、台南市の黄偉哲市長が「台南在住の日本人に優先接種する」と表明したことにちなんで、在台日本人への優先接種に対する意見を聞いたものだ。

 アンケートの結果は次の通り。 (集計期間:4日午後7時から5日午後7時まで/回答数:63票)

 結果はわりと予想通りで、「我OK,你先打 最後になっても構わない」の回答者が58.7%と半数を超えた。一方、「優先接種させてくれるなら、ありがたくする」20.6%にとどまった。

 「そもそも打つつもりはない」14.3%「むしろ台湾ワクチンを打ちたい」6.3%だった。

「辞退する」が「正しい」の?

 なぜこんなアンケートを取ったかというと、TwitterやFacebook上では「気持ちだけで十分」「辞退する人が多いと思う」「それは違う」みたいな意見が優勢のように見え、コメントしている本人たちにそういう意識はないと思うが「辞退すること=美徳で正しい」みたいな空気が醸成されつつあることが気にかかったからだ。

 台南在住の人が「気持ちだけで十分」というのは分かるが、台南在住でもなんでもない人が「辞退する人が多い」「それは違う」と言うことに対して、わたしは「それは違う」と思った

 だから、「可能であるならば優先接種をしたい」と表立って表明している人は少数派だが、「表明してはいないけど心の中ではしたいと思っている」人がどのくらいいるのかを知りたかった。

 今回のアンケートは回答者がさほど多くないため、あくまでも参考程度だが、台湾界隈のTwitterの利用者の特性を考慮すると、実際には「優先接種を可能ならばしたい」と考えている人の割合は2割よりももっと多いのではないかと推測する。

私は「優先接種させてくれるなら、ありがたくする」

 私自身は「優先接種させてくれるなら、ありがたくする」派だ。

 理由はいくつかある。
(1)独り身で家族がいない、自分の身を守れるのは自分だけ
(2)急遽日本に一時帰国せざるを得なくなった場合に、家族に感染させるリスクを減らしたい(帰国時に会う親族は高齢者と子供が大半だ)
(3)外国人が国民と同様に接種させてもらえるのかへの不安
(4)接種の順位が後回しにされた場合に打たれる可能性があるワクチンへの懸念
(5)地方出身のため、日本政府が現在検討している成田や羽田での一時帰国時の接種は現実的ではない

などが主な理由だ。

 本当は自費接種が始まってすぐの段階で、同僚や友人からの勧めもあって接種しようと思っていたのだが、副反応が出ることを考慮して日程選びで迷っていたのと、「できればアストラゼネカ製じゃなくてモデルナ製にしたい」という思いから予約を先延ばしにしていたところ、感染急拡大で自費接種が打ち切られてしまった。これは先見の明がない自分の責任である。

 日本政府は「外国人も国民と同様に、公費接種の対象にする」と明言しているが、台湾は私の知る限りでは明言はしていない(もしあれば情報提供を求む)。衛生福利部が公表している「公費接種対象」についてはこちらを見てほしい。少なくともこの表には、外国人に関する記述はない。

 だから台湾内でワクチンが不足している状況下において、自分が打てる機会が回ってきたらすぐにでも打ちたいと考えている。

データから見るワクチンの数と優先接種対象者、在台日本人

 ただ、台湾内で感染が拡大し、ワクチンが不足している中で、「必要な人を優先にすべき」というのは当然であり、正論だ。私も本当は「自分は最後でも構わない」とかっこいいことを言いたい。私に台湾の家族がいて、日本に帰国する可能性が1%もなくて、いつか必ずファイザーかモデルナか、アストラゼネカ製(もしくはジョンソンアンドジョンソン)を打てるという保証があるのであれば、「自分は最後でもいい」と言えるかもしれない。だが残念ながら私の現状はそうではない。

 ならば、「私は後回しでいいから必要な人から先に」とが言う人たちが指す「必要な人」とはどの順位の人までのことを言うのか。

 衛生福利部が公表しているコロナワクチンの優先接種順位を見てみよう。

COVID-19 疫苗接種對象優先順序(衛生福利部疾病管制署HP、クリックするとPDFが開きます)

 現在政府が優先的に打っているのは(1)医療従事者(2)中央・地方政府の防疫関係者(3)社会維持に必要な人(警察や憲兵など)の3カテゴリーに当てはまる人だ。

参考:
疫苗如何預約、費用、流程 QA 一次看!自費、公費差在哪裡,你能自費接種新冠疫苗嗎?(経理人)

それぞれの対象人数は(1)33.2万人(2)14万人(3)9万人、合計56.2万人となっている。

 次に、6月5日現在で台湾に累計何万回分のワクチンが到着したのかも見てみる。

 1回目:3月3日 AZ(直接) 11.7万回分

 2回目:4月4日 AZ(COVAX)19.92万回分

 3回目:5月19日 AZ(COVAX)41.04万回分

 4回目:5月28日 モデルナ(直接)15万回分

 5回目;6月4日 AZ(日本)124万回分

(いずれも衛生福利部疾病管制署のプレスリリースを参照)

 累計で211万6600回分に達する。

 ちなみに、一時は公費接種の対象が第8カテゴリーまで拡大されていたのに加え、6月4日現在で自費接種を受けた人が4万1190人いることを踏まえると、第1〜3カテゴリーの人全員と、それ以外ですでに1回目接種済みの人が2回接種を終えるのに必要な量は、多めに見積もっても130万回分程度だろう。

 中央感染症指揮センターの陳時中指揮官は4日の記者会見で、長期ケア施設や社会福祉施設の職員や入居者と75歳以上の高齢者を優先接種の対象に加えると発表した。

参考:日本AZ疫苗124萬劑抵台 長照、75歲以上長者納優先接種(自由時報)
 
 この2つのカテゴリーの対象者はケア関連(第4カテゴリー)が15.8万人、75歳以上の人口は約143万人(国家発展委員会人口推計2020−2070年より)。

 さすがに75歳以上まで入れると必要回数は累計400万回以上に跳ね上がるが、そもそもここまで入れるととてもではないが現在の数量では到底足りない。

 さて、では在台日本人はどのくらいいるのか

有効な居留証を所持して台湾に居住する日本人
(2021年4月末現在/内政部移民署統計)
有効な居留証を所持して台湾に居住する日本人(2021年4月末現在/内政部移民署統計、筆者作図)※クリックで拡大できます。

 内政部移民署の統計によれば、有効な居留証を持って台湾に居住している日本人は4月末現在で1万6790人内政部移民署統計。このうち15歳未満が1619人いて、アストラゼネカ製ワクチンを接種できない18歳以下の人や妊婦などを考慮すると、接種対象はもちろんもっと少なくなる。

 最大限に見積もっても、在台日本人に接種させるために必要なワクチンは3万回分にも満たないだろう。

 このことから考えても、日本が台湾に贈った124万回分のうちのほんの一部を日本人がもらうことによって台湾のワクチン接種の進行に多大な影響が出るとはとても思わないし、日本政府だって、日本人に打たせることを1ミリも考えていないとも思えない。(でも、私がこう思うだけであって、優先順位に入っている人全員に打たせるにはまだまだ数が足りないから、たとえ3万回分だとしても割り込みは良くない!と考える人ももちろんいるだろう。)

 長くなったが、とにかく私が言いたいのは、台南在住の人で優先接種をしたい人がいれば、お言葉に甘えて受ければいいし、したくなければしなければいい。「自分は後で構わない」と思っている人は、もし自分が優先接種の対象になったら辞退をすればいいだけなのだから、「辞退すべき」とか「優先接種は違う」など無責任な発言をして、接種をしたい人の邪魔をすることはしないでほしい抱える状況は人それぞれ違うのだから。

他県市はどうなるのか

 私は台北在住だから、この先どうなるか分からない。「できれば早めに打ちたい」と一外国人にしか過ぎない私が言っても、結局決めるのはお役所だ。台南市のようにトップが緑の県市であれば、台南に追随する可能性がありそうだが、台北は柯Pだからどうだろう。期待薄かもしれない。そもそも感染が深刻化している都市であるから、中央政府が決めた順番通りに打つのは至極当然だ。しかも台北在住の日本人は7770人と他県市に比べて圧倒的に多い(台南市は738人)から、実現させるのは困難だろう。「優先接種させろ〜!」と声高に台北市に申し入れるつもりは毛頭ない。

 と思っていたところ、柯文哲市長は4日の記者会見で、日本人への優先接種について「道理にかなわないわけではない」と発言したようだ。前向きではないかもしれないが、可能性は無いわけではない気がする。

参考:日本贈疫苗日僑優先施打? 柯文哲:不是不合理(聯合報)
 
 今後の動向を注視していきたい。

※アイキャッチ画像はArvi PandeyによるPixabayからお借りしました。

6 COMMENTS

expat

医療従事者や高齢者への優先接種は公衆衛生上正当化可能ですが、感染と国籍とは無関係である以上、日本国籍を持つ居住者への優先接種は、憲法上の平等権に違反する可能性が高いように思います(国民と外国人との取り扱いの差のみならず、日本人ーそれ以外の外国人という外国人間の取り扱いの差にもなるるので、よりセンシティヴになります)。
そのため、個人的な見立てとしては、政治家が「台日友好」感情に配慮して適当なことを言っているだけで、本当にそのような措置をとる可能性は低いのではと見ています。ですので、議論自体を否定するわけではありませんが、余り現時点で熱心にする必要のある議論ではない(仮に本当に実行する段階になってから考えても遅くない)ように思います。

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kuroqie

コメントありがとうございます。
「感染と国籍は無関係」。それはごもっともです。私もそう思うし、だからこそ世界各国がWHOで台湾を支持したし、日本もアメリカもワクチンを贈ってるんですよね。
ですが、問題は台湾の政府はワクチン接種において「国民」と「外国人」を平等に扱うと明言していますか?私が調べる限りでは明言していないので、ここに不安があるのです。もし明言しているソースがあればご提示いただければ助かります。

また、台南市長の表明に対し、市長のFBには「気持ちだけで結構」といった旨のコメントが多数寄せられ、陳時中指揮官も「遠慮する人が多いようだ」と会見でおっしゃっていました。「辞退する」と今の時点で表明している人がいるからこそ、「優先接種ができるのであればお言葉に甘えたい」という意見も表明してもいい、むしろすべきだと思っています。

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taiwan tainan

友人のシェアから、初めてこちらのブログを知りました。(他のテーマの記事も、楽しく読ませていただきました。)

台南在住です。
今は毎日をこなすのが精一杯。
どんどん更新される情報にもついていけず、ワクチンについて意見交換できた日本人の方は数人のみ。(台湾の友人は受けられる時に受けていた方が絶対にいいよ!と。ありがたいです。)

色々な思いが交錯する中、こちらの記事はとても参考になりました。ありがとうございました。

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kuroqie

コメントありがとうございます。

他の記事も読んでいただけたとのこと、嬉しいです。

情報更新のスピードは本当に早いですよね。
ワクチンについては打つのか打たないのかというところから悩みますし、また、台湾は政治情勢が複雑なだけに、さらに理解が難しく、判断も難しいように思います。
優先接種をできればしたい人、辞退しようと思っている人、考えはそれぞれで、どれが正しいとは言い切れないと思いますので、
「こういう考えもあるんだ」くらいにこの記事は受け止めていただければ幸いです。

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expat

コメントへのご返信、ありがとうございます。

上記説明した通り、そもそも憲法上の平等権の問題があります。また、私の知る限りでは、少なくともリベラル・デモクラシーをとる主要国の間では、ワクチンは国籍に関係なくallocateされています(イスラエルのパレスチナに対する措置は例外ですが、この対応さえも国際的な非難を浴びて撤回されています)。

kuroqieさんは台湾政府が台湾人のみを対象にして外国人を排除する可能性がある、と見立てておりますが、ワクチン供給に関する国際比較や法的な立て付けを鑑みれば、そもそもそのような推論をされる方が困難ではないかと思います。一般に、一応の推論で導かれる答えでないことを主張されるためには、その主張をする方が論拠を用意すべきですので、kuroqieさんご自身の推論の方に根拠が必要なのではと思います。換言すれば、立証責任はkuroqieさんの方にあるのであって、相手の主張に厳格なエビデンスを求めつつご自身は根拠なく「不安」を述べるのは、余り良い議論の組み立てとは言えなのではないか、と考えます。
(三倍券の件で政府の対応に不信感を持たれているとは思いますが、そもそも政策内容の重要性が根本的に異なることには留意すべきかと思います)。

その上で、私が最初のコメントした後のツイートとなりますが、蔡英文がワクチン供給につき’everyone in Taiwan’ととくに言及しているものを見つけましたので、添付しておきます。https://twitter.com/iingwen/status/1401826881041682436?s=20

従って、少なくともkuroqieさんの言う、外国人の排除を不安視するので日本人(ご自身)への優先接種を希望する、というご主張は、現時点では成り立たないかと思います。
他の論拠によってはなお正当化可能かもしれませんので、とくに否定するつもりはありませんし、発言それ自体が適切でないというつもりは毛頭ありません。

とりあえず以上です。議論につきあっていただき、ありがとうございます。

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kuroqie

憲法上の平等権という主張はよく分かります。
私が台湾政府の外国人政策に不信感があるのも事実です。

ただ、expat様が主張される「主要国の間では国籍関係なくワクチンを接種している」という点ですが、主要国は同時に「外国人も平等に接種する」と公言しているのではないですか?
私の知る限り、日本やアメリカは公言しています。
では、台湾はなぜ公言していないのか?公言していないこと自体が「外国人を排除する可能性への不安」の根拠とはなりえませんか?
公言しない理由を考えたことはありませんか?
(追記:JETROが「在留外国人へのワクチン接種は国ごとに差」という記事で各国の在留外国人の扱いについてまとめているので、ご参考までにhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2021/03/e1312885b7d9df74.html)

蔡英文総統のツイートはもちろん確認しました。しかし、それは私が記事を掲載した後に発表されたものであり、expat様の主張の根拠とされるのはアンフェアだと思います。
また、衛生福利部が6月6日に発表した公費接種の対象は「全體國民」と書いてありました。この國民に外国人は含まれるのでしょうか?

また、最後になりますが、私が「外国人排除を不安視するから優先接種が可能であればしたい」というのは私個人の「意見」です。成り立たないと他人に判断される筋合いはないし、別にそう思われてもいいです。私は別に他人に「優先接種しろ」と言っているわけでもないし、辞退する人を否定するわけではありません。
あくまで一つの意見として、誰かの参考になればと思って書いているので、私の意見が必ずしも正しいと思っていません。

こちらこそ、議論にお付き合いいただき、ありがとうございました。
とにかく、ワクチン接種が滞りなく進むことを願っています。

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