台湾ゾンビ映画『逃出立法院』が最高に面白い

 台北映画祭で上映された『逃出立法院』が最高に面白かったので、家に帰ってからすぐにこれを書いています。

 湾の国会に当たる立法院を舞台にしたゾンビコメディー映画です。

 この題材を聞いただけで「面白そう」と思い、上映を心待ちにしていました。
当初は今年4月の「2020金馬奇幻影展」でプレミア上映される予定だったのですが、新型コロナの影響で映画祭自体が中止に。4月に予定されていた一般公開も延期されてしまいました。

 私にとっては待ちに待った上映。

 題材に加えて、メガホンを取ったのがワン・イーファン(王逸帆)監督というところも期待ポイントでした。ワン監督といえば、2018年の台北映画奨で短編映画賞を受賞した「洞兩洞六」の監督。この作品は、兵役の一幕を描いた作品なのですが、強烈なブラックユーモアですごく印象に残っていました。

 こんな期待感満載で見に行ったわけですが、期待を裏切るどころか、期待以上でした。傑作と言って過言ではない。少なくとも私が最近見た台湾映画の中では、去年の『下半場』以来の「素晴らしい!!!」と思った作品です。

あらすじ

 あらすじを簡単に説明しておきます。

実家がある海辺に某国の化学工場が建設されるのを阻止するために立法委員(国会議員)になった熊穎穎(メーガン・ライ/賴雅妍)。反対派の立法委員に仕掛けられた取っ組み合いの暴力事件によって職を失うことになり、この事件で一躍注目を浴びた警備員・王有為(ブルース/禾浩辰)が穎穎の代わりに立法委員になる。そして、工場建設の審議が行われる国会議事堂で、化学工場のウイルスに感染した総統が突如ゾンビ化し、議事堂はあっという間にゾンビだらけに。国会から逃げ出そうとする王有為や熊穎穎の前には様々な困難が降りかかるーー。

といったところです。ゾンビ映画にもいろいろあると思いますが、この作品は完全にコメディーです。血はたくさん飛びますが、グロテスクでは全くありません(私の感覚では)。

作品の見どころ

 まず、メーガン・ライの演技がかなり突き抜けていて、こんなにはっちゃけた演技もできるのかと驚愕。冒頭からドカドカと笑いを誘っていました。

 映像表現も独創的で、テレビゲームやカラオケ風の映像がところどころで挿入されます。しかも芸が細かい。

 かなりテンポよく物語が進んでいき、笑いどころもいたるとことに散りばめていて、約1時間半の上映時間中、だれるところが全くありませんでした。

 この作品が撮影されたのはコロナ禍よりも前なのですが、ウイルス感染や中央指揮センターなど、今の時勢で馴染み深いキーワードも出てくるのも興味深かったです。

 作品中には序盤と終盤に「我講的不是政治,我講的是我家」(私が言っているのは政治のことじゃない。自分の家のことなんだ)というセリフが2回出てきます。発話者は序盤と終盤では異なります。最初に聞いたときは単なるセリフなのですが、終盤で聞くと心に迫るものがあり、これまでずっと楽しく笑っていたのに、ふとウルっと来てしまいました。なんてすごい作品なんだ。

 上映後のQ&Aで、ワン監督は、同作で描きたかったのは「貪」だと言っていました。悪役には、自分の利益のことしか考えない悪徳政治家が出てきます。王有為や熊穎穎は「正義」側の登場人物で、悪と戦って勝つというわかりやすい二項対立構造で物語は描かれます。でも、陳腐さは全く感じません。

 台湾は中国との関係があり、政治的に微妙な立ち位置にあります。日本にとって「当たり前」なものが、台湾にとっては「勝ち取らないといけないもの」だということを私は台湾に来て初めて身を以て知りました。だからこそ最後の「我講的不是政治,我講的是我家」というセリフが制作者、ひいては台湾の人々の心の叫びを反映しているように感じて心に突き刺さったのです。「政治なんてどうでもいい。ただ自分たちの『家』を守りたいだけなんだ」と。

 本当に素晴らしい作品だったので、見られる機会がある方はぜひとも見ていただきたいと思います。台湾では8月14日公開です。ご覧になった方はぜひコメントを下さい!

予告編

『逃出立法院』予告映像 華映娯楽公式チャンネルより

ワン監督の『洞兩洞六』については、下記で予告編が見られます。

参考 洞兩洞六台灣電影網

関連ページ

公式フェイスブック

参考 逃出立法院台北電影節

こぼれ話

 台北映画祭で上映された当日、立法院では立法院が抗議のために議事堂に立てこもるという事件が発生しました。偶然にもこの作品の一幕と重なり、公式FBでは「逃出立法院の素晴らしい幕開けを飾ってくれて立法委員のみなさんありがとう」と感謝メッセージが投稿されていました。なんともたくましい(笑)。

参考 野党・国民党が国会を占拠 監察院人事に不満中央社フォーカス台湾

ネタバレだけどどうしても言いたいこと

 以下はネタバレを含みます。ご注意下さい。

 熊穎穎のパパがみんなを守るために自らゾンビの犠牲になっていくところは、韓国ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の筋肉ムキムキ男(マ・ドンソク)のオマージュとしか思えない。

コメントを残す