母親はレズビアン 家族間の複雑な思いを描くドキュメンタリー『日常対話』

 2017年に台湾で公開されたドキュメンタリー映画『日常対話』のホアン・フイチェン(黄惠偵)監督が執筆した書籍『我和我的T媽媽(同性愛母と私の記録・仮)』を日本で翻訳出版をするためのクラウドファンディングが始まっています。私は書籍は読んでいないのですが、日常対話は2017年に鑑賞し、印象深かったので、当時書き残していたメモを整理する形で、映画を短めにレビューしていきます。

<関連>クラウドファンディングについてはこちら↓

参考 台湾発・レズビアンの母親と向き合うドキュメンタリー『我和我的T媽媽(同性愛母と私の記録・仮)』を翻訳出版したい!GREEN FUNDING

<2021年6月26日追記>
同作は『日常対話」のタイトルで2021年7月31日に日本で公開されることが決まりました。

公式サイト:https://www.smalltalktw.jp/

作品情報

 「日常対話」は、ホアン監督とそのレズビアンである実の母親の関係にスポットを当てたドキュメンタリー映画です。LGBTの人とその家族の複雑な思いが当事者としての視点で描かれます。

 2016年に金馬奨のドキュメンタリー作品賞にノミネートされたほか、2017
年のベルリン国際映画祭では、LGBTを扱う作品を対象にしたテディ賞のドキュメンタリー賞を台湾映画として初めて受賞。同年には台湾代表として米アカデミー賞の選考に出品されました。

 台湾映画の巨匠、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)がエグゼクティブプロデューサーを務めています。

 2017年といえば、大法官会議によって、同性婚を保障しない現行の法律は「違憲」とする判断が下された年でもあります。作品の公開は4月、憲法解釈は5月に行われました。作品が公開された時期は違憲判断の前で、LBGTに関する問題に関心が高まっていたように記憶しています。

参考 アジア初 同性婚の未保障は「違憲」 法改正を要求=大法官会議中央社フォーカス台湾

「家族」とLGBT

 もしかしたらややネタバレになってしまうかもしれませんが、最も印象的だった部分について、概要を交えて書いていきます。

 作品の中心的人物である母親は、自身が好きなのは女性であると知りながらも男性と結婚。しかし、夫から家庭内暴力に遭い、二人の娘を連れて家を出ます。娘に対して自身をさらけだすのが苦手で、娘と一緒に生活をしていながらも気持ちの疎通はあまりしてきませんでした。母、娘ともに互いを愛する気持ちはあるのに、伝わっていなかった過去。母親は、自身がレズビアンとは娘には言ってはいませんが、隠してもいません。ホアン監督は、親族や母親の彼女たちに話を聞き、様々な角度から母親について理解していきます。また、母親との対話シーンでは、カメラを定点に置き、完全に二人きりの部屋で撮影。今まで口にできなかった胸のうちを互いに明かし、作品を通じて母娘間の気持ちのすれ違いが徐々に埋められていきます。

 興味深かったのは、高齢の親族の反応です。親族の皆さんは、この母親がレズビアンだとは「知らなかった」と口を揃えます。しかしその直後、話題をそらして席を離れようとしたのです。このことから、その話題は「タブー」であることが伺い知れました。

 監督の妹の娘も、それとなく知りながらも「聞けなかった」と。娘の一人は同姓婚について明確な肯定を示すものの、もう一人は「わからない」と口をつぐみます。親族の立場として、もろ手を挙げて賛成するとは言えない複雑な心情を抱えているように見て取れました。

台湾のLGBT受容 社会と家庭内は別問題?

 現在の台湾は、同性婚を保障しない法律が「違憲」と判断され、2019年には同性婚が合法化されたように、LGBTに対して比較的寛容な社会であるように思えます。街中でも堂々と手をつないだり、イチャイチャしたりする同性カップルの姿をよく見かけます。一方でこの作品を通じ、社会的にLGBTを受け入れるのと、家族内でLGBTを受け入れることは別問題なのだろうと感じました。

 LGBTの人とその家族の関係は、極めて私的なものです。当事者でなければ、その実態を知ることは非常に難しいです。その点において、台湾におけるLBGTを巡る家族の問題、そして両者の間に存在する複雑な思いを当事者目線で伝えるこの作品は、LGBTを理解する上でとても貴重な資料でもあると感じます。

 上記で内容についてザッと触れてしまいましたが、この作品は大まかに内容を知ってから見たほうがより理解が深まるはずです。

 台湾におけるLGBTの受容に関して理解を深めたい方には、ぜひ見ていただきたい作品です。

予告編


※アイキャッチはPeggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像です。

コメントを残す