そろそろ台湾を「親日」フィルターを通して見るのをやめませんか?

 逝去した李登輝元総統に追悼の意を表する安倍晋三首相のツイートに対し、蔡英文総統がツイッターに投稿したこの文章で、引っかかったことがある。

 私がひっかかったのは「李登輝元総統の功績をたたえてくれたことに感謝します」の部分。

 自分自身のことを褒められて言うならまだいいが、他国の首脳に対して、大先輩である李登輝氏を「ほめてくれてありがとう」と言うのは変ではないか。日本を台湾よりも上に見ているような印象を持ち、「そんなに日本に媚を売らないでいいから」ともやもやした思いを感じた。

 ただ付け加えておくと、もしかしたらこれは翻訳、あるいは文化的差異の問題かもしれない。日本人的感覚だと、他者から自分の目上の身内を褒められたときに「ほめてくれてありがとう」とは言わないが、台湾だとそうではないのかもしれない。だから、このツイートに関しては深堀りしないことにする。

 このツイートに触れたのは、最近話題になった記事台湾でじんわり冷めだす『日本語学習熱』に対するインターネット上の反応から、日本と台湾の上下関係について考えることがあったからだ。

 この記事について、日本語熱が下がっているという事象から、台湾での日本のプレゼンス低下を憂慮する声が散見された。

 でも私は「ちょっと待てよ」と思う。

 ここには「台湾は親日で当たり前」「日本を重視していて当然」という上から目線の意識が根底にあるのではないか。

親日は当たり前じゃない 日本への関心はまだまだ高い

 記事では、国際交流基金の2018年度調査を基に、台湾で日本語学習者が前回2015年度調査と比べて22.7%減少したことが紹介された。実際に数値に表れているため、それは間違いないのだとは思うが、日本語学習熱が下がっているのか、私自身は肌感覚では分からない。

 2011年に台湾の大学院に留学した時、同級生に日本語を学んでいる人は皆無だった。もちろん喋れる人もおらず、大学院時代の特に前半は日本語はほぼゼロで過ごした。

 大学院生時代、学外では日本語ができる台湾人と知り合ったし、今の職場は日本語を使う仕事だから日本語ができる人もいるが、私の周りにいる台湾人で日本語ができるのはごく一部に過ぎない。だから、そもそも日本語学習熱を感じたことがない。

 先に挙げた記事で、日本語熱が下がった原因の一つには、蔡政権が掲げるバイリンガル政策があると指摘されたが、統計で表れた日本語学習者の減少とこの政策の関係は薄いと私は考えている。

 なぜなら、統計は2018年度の調査で、調査票の配布・回収期間は「2018年5月〜2019年3月(一部の国では2019年7月まで)」とされている。一方、行政院(内閣)が「2030バイリンガル国家政策発展青写真」を打ち出したのは2018年12月のことだ。台湾で調査票が配布、回収されたのはいつかわからないが、政策が打ち出されただけですぐさま多くの人が日本語学習をやめるとは到底思えない。そもそも英語学習はグローバル的な流れで、もともと台湾では日本語熱よりも英語熱のほうが高い。

 私のルームメイトの子供(5歳)は、英語を中心に学ぶ幼稚園に通っている。面白いのが、この幼稚園では、日本語もカリキュラムに組み込まれているのだ。これはすごいことではないか。少なくとも、外国語で2番目に重要だとみなされているということだ。

 ポップカルチャーにしても、今は韓国に押されているとはいえ、相変わらず緯来日本台のように日本番組専門チャンネルはあるし、最近同チャンネルで半沢直樹続編の放送が始まったように、日本とほぼリアルタイムで日本のドラマが中国語字幕付きでテレビで見られるなんて、本当にすごいことだと思う。

 反対に、日本で台湾ドラマを台湾とほぼリアルタイムでテレビで見られるなんてことは夢のまた夢だ。

 記事で紹介された、国際交流基金が2018年度の日本語教育機関調査を基に今年6月に発表した報告書「海外の日本語教育の現状」において、たしかに台湾だけに焦点を絞ると2018年度調査の学習者数は前回2015年度調査比で22.7%減の17万159人と減少幅が大きいと感じるが、世界全体に目を向けると、学習者数ベースでは世界7位と台湾はいまだに上位に位置している。さらに、台湾の人口は約2400万人であるのに対し、1位の中国(約13億9273万人)、2位のインドネシア(約2億5500万人)は億を超え、3位の韓国(約5127万人)、5位のタイ(約6891万人)、6位のベトナム(約9764万人)も台湾の倍以上の人口がいる。統計で面白かったのは、4位のオーストラリアは人口2499万人と台湾と大差がないにも関わらず、学習者数は台湾の2倍以上の40万5175人だった。台湾は人口に占める学習者の割合ではオーストラリア、韓国に次いで3位だ。(注:台湾を除く各国の人口は外務省の各国基礎データを参照)

 また、道を歩いている時、カフェやレストランにいる時など、近くの人から「日本」というワードがふと聞こえてくることが非常に多い。日本への関心が良くも悪くも依然として高いことは肌感覚で実感している。 

 私は、「日本語熱が下がった」という面に焦点を当てて悲観的になるよりも、「台湾ではまだまだ日本語が重視されている」「日本への関心が高い」と謙虚な気持ちで向き合い、「日本と台湾がよりよい関係を築くためにはどうしていくべきか」と考えるほうが建設的ではないかと思う。

親日感情に甘えず、理解深化を

 ここまで日本語学習熱について考えてきたが、前述の記事では、タイトルに「日本語熱」というキーワードが出されていたからこの部分が注目されただけで、筆者の吉村剛史氏が最も伝えたかったのは、

(前略)日本には、これまでのように台湾側の親日感情に依存した関係から脱却し、より対等で未来志向の関係を構築する努力が求められている

台湾でじんわり冷めだす「日本語学習熱」
日本は台湾の「親日」に依存せず、対等な日台関係構築を

という部分ではないかと推察する。

 「親日感情に依存した関係から脱却」というこの見解には全く同感だ。

 台湾の人は日本のことをよく知っている。例えば政治討論番組を見ると、私がよく知らない日本の歴史なんかを引き合いに出して日本を論じていることがある。時事にしても、台湾のニュースを見ていれば日本で何が起きているのかすぐに知ることができる。特にコロナ初期は、日本のヤフーニュースよりも、台湾のニュース番組を見たほうが日本の感染状況がよくわかった。

 台湾では日本の情報が常にアップデートされている一方、日本は台湾の変化を追えているだろうか。

 また、最近日本のメディアが台湾について触れる際、台湾の良い面をピックアップして伝えているように感じているが、台湾メディアが伝える日本は良い面だけではない。日本の悪い面も伝えるし、当然のように批判もしている。この面から考えても、日本側の台湾理解は、台湾側の日本理解に比べてまだまだ未熟だと感じる。

 「日台友好」と口先でいいつつも、台湾の「親日」感情に甘えて台湾への理解を深めようとしないのでは、日本と台湾の差は開いていくばかりだ。

 まだまだ日本が重視されている今だからこそ、われわれ日本人は台湾を親日のフィルターで見るのをやめて、対等に、まっすぐに台湾を見つめるべきなのではないか。台湾から見放されてからでは遅いのだ。

台湾政治家の日本語発信の増加

 台湾の政治家の最近の日本語での情報発信は目を見張るものがある。蔡総統をはじめ、頼清徳副総統、林佳龍交通部長(交通相)、鄭文燦桃園市長など、多くの政治家がツイッターで日本語の投稿をしている。これらに代表されるように、台湾側が日本向けに日本語で情報を発信する量が増えてきているように感じる。これからは日本語の必要性が「台湾の情報を発信する」目的に重きが置かれるようになるのではないかという気がしている。

 台湾にとって、日本は中国、米国に次いで世界第3位の貿易相手国(2019年中華民国貿易統計)であり、商売相手として重要なことには変わりない。

 日本には台湾にはない強みがたくさんある。身近なところでいうと、例えばスイーツ。台湾のスイーツは、パイナップルケーキとか、太陽餅とか、すでにある枠の中で味のバリエーションを広げていく傾向が強いように感じる。だが、日本はジャンルにとらわれないスイーツが続々と生まれていて、お土産で日本のお菓子をもらうたびにその繊細な美味しさに感激する。アイデアによって全く新しいものを生み出すというのは、圧倒的な強みだと思う。

 製品パッケージにしても、どこからでも手で切れるタレの袋だったり、注ぎやすく垂れにくい液体洗剤の蓋だったり、消費者の使いやすさをこんなに考えてくれている製品は、台湾ではなかなか無い。ルームメイトに感動された商品は、百均で買った製氷皿。それまで使っていた製氷皿は固すぎて、なかなか氷が取り出せなかったのだが、百均で買った製氷皿は軽い力でひねって氷を取り出すことができる。なんてことのないアイテムだけれど、こういう細かいところがスムーズに解決できるかどうかで生活にかかるストレスは全く異なる。しかも、それが安価で買えるなんて素晴らしい。

 ここに挙げた例は、細かな一つ一つの事例に過ぎないが、目をもっと広い分野に向けていけば、日本の強みはもっともっとたくさん見つかるはずだ。

 日本人は日本に対して悲観的になりすぎず、おごりを捨てる。台湾の優れた面は素直に見習い、取り入れ、日本の優れた面で勝負、または協力していこうとする姿勢がますます大切になっていくのではないだろうか。

台湾人へのお願い

 日台の草の根交流を考える上でいつも気になるのはもう一つ、台湾人が日本人を甘やかしすぎだということ。

 最近は減ってきた印象もあるが、2011年の東日本大震災以降、「謝謝台湾」を口実に、見知らぬ台湾の人々の好意に甘えながら台湾を旅する日本人がニュースになることが度々あった。

 私としては本当に台湾に感謝する気持ちがあるのならば、台湾人の好意に甘えるのではなくて、自分でお金を払って台湾の経済を潤したり、相手の迷惑にならない形で恩返しをしたりするべきではないかと考える。それなのに、台湾の警察もメディアも、あたかも美談のように取り上げるものだから、同じ日本人として恥ずかしかった。

 親日にあぐらをかく日本人がこれ以上増えないように、台湾の人々にはぜひ、日本人を甘やかすのをやめてほしい。

参考資料

参考 2030雙語國家政策發展藍圖行政院公式サイト 参考 2018年度 海外日本語教育機関調査国際交流基金 参考 台湾でじんわり冷めだす「日本語学習熱」<br>日本は台湾の「親日」に依存せず、対等な日台関係構築をJBpress

2 COMMENTS

ハニー

日本人に甘い、確かに旅をして感じます。後で振り返ると失礼な事したかなと思うことも何も言わず許してくれてたのかなと思う事多々有り。これを親日だと勘違いして図に乗ってはいけませんよね。

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kuroqie

コメントありがとうございます。

私は普通に旅をしていてやさしくしてもらえるのはありがたいことだとは思うのですが、
それを利用して自分が得をしようとする日本人がごく一部ながらいるので、そういう人たちには別に親切にしなくていいんだよと心の中で思ってます。

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