「恋人が変わってしまったら、あなたはどうしますか?」台湾映画『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』から考える恋愛との向き合い方

怪胎ポスター

 下半期は話題作目白押しな台湾映画。今回は8月7日公開の『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター(怪胎)』 (i WEiR DO)を取り上げます。作品情報、見どころの紹介に加え、作品の中核をなす「恋人が変わってしまったら、あなたはどうする?」という問題提起から、「選択」そして「パートナー選び」について考えます。

<2021年6月25日追記>
 同作は『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』のタイトルで日本で2021年8月20日に公開されることが決まりました。

作品情報

 強迫性障害を持ち、極度の潔癖症の男女2人がある日偶然に出会って恋に落ちる。だが、ある日突然、片方の障害が治ってしまい――。

といった内容です。

 主演はニッキー・シエ(謝欣穎)とリン・ボーホン(林柏宏)。

 2人共30代の実力ある中堅俳優です。私は元々2人とも好きなのですが、2人の並びがこんなにしっくり来るとは。こんなにお似合いなのに、初共演というから驚きです。

 監督はリャオ・ミンイー(廖明毅)。今作が長編デビュー作になります。脚本、撮影も担当しています。

 この作品は、iPhoneで全編撮影されたという点も特徴の一つです。台湾映画では初の試みとのことです。

 「面白そう!」と思った方は、まずは予告編からどうぞ。

見どころ

監督の創意・野心

 前項でも触れましたが、同作は全編がiPhoneで撮影されています。iPhoneでここまで本格的な映像作品が撮れるとは、撮影も担当したリャオ監督の腕のよさを伺わせます。

 作品中には台北メトロ車内のシーンが多数登場しますが、この記事によれば、iPhoneという小さな機材を使ったからこそ、小回りのきく撮影ができたとリャオ監督は説明しています。なんと、監督は車外にいて、役者に自由に演技をさせていたそうです。

 そして予告編でも見て取れるのですが、あるタイミングで、画面の比率が正方形から長方形に変化します。これによって、主人公の視野や展開の変わり目が表現されていて、監督の挑戦意欲を感じさせました。ビビッドな色彩にも注目。この作品の世界観をより豊かなものにしています。

主演2人の演技力

 ニッキー・シエ、リン・ボーホンともに素晴らしい演技を見せていましたが、今作で特に光っていたのはリン・ボーホン。

 ここもネタバレになってしまうのであまり言えないのですが、前半と後半で役柄の性格がガラッと変わります。好青年のイメージが強いボーホンですが、後半では嫌悪感まで感じさせる演技を披露しています。その幅広い演技の引き出しに驚かされました。

「恋人が変わってしまったら、あなたはどうしますか」

 予告編からも分かるように、「恋人が変わってしまったら、あなたはどうしますか」。これが作品が発している問題提起です。

 2人は「強迫性障害」という共通点から一気に距離を詰め、互いを「気持ちを分かってくれる人」とみなして心の支えとしていきます。二人はラブラブな絶頂期に「ずっとこのまま変わらないよね」と約束します。

 しかし、その約束はすぐに破られることになります。ある朝突然、パートナーの障害が消えて「正常な人」になってしまうのです。ここから二人の関係にひずみが生じていきます。障害が治った片方がどんどん正常になっていくにつれて、二人の溝はますます大きくなり、そしてとうとう「変わっていないもう片方」の不満が爆発してしまいます。その後の展開はネタバレになってしまうので詳細は伏せますが、「変わってしまったらどうする?」という大きな問題が突きつけらることになるのです。

 興味深いのは、「変わっていない片方」は「正常な人」になった相手を責め、「変わってしまった側」は相手に対し、「選ぶ余地はないんだ」と訴えます。強迫性障害を負ったのも、恋に落ちたのも、障害が治ったのも、実は全て「選択」したものではありません。結果的に「そうなってしまった」ものです。このセリフは、恋愛、ひいては人生における「自然とそうなってしまったもの」に対する苦悩を表しているように感じました。

 そしてまた「相手が変わってしまう」ということも、自分ではどうにもできません。ただ、変わってしまった相手に対し、「自分はどうするか」ということは自分に「選択」の権利が与えられています。この部分が、監督が伝えたいメッセージなのではないでしょうか。

「怪胎」から学ぶパートナー選び

 「選択」の命題は別として、この2人の場合、相手を好きな理由が「自分と似ている」「気持ちをわかってくれる」とベクトルが自分に向いていて、相手自体が好きなわけではないから、片方が「自分と違う」人間になってしまったことで「好き」という感情を支える要素が消えてしまったのが、歯車がくるった原因なのではないかと推測しています。

 でも実際、当事者になってみると、自分の感情が「同類だから好き」なのか、「相手自身が好き」なのか、分からない場合はよくあると思います。自分が弱ったりしている場合なんかは特に。

 学生時代から付き合っていて、そのまま結婚して何十年も連れ添っている方もいます。途中で互いに身を置く環境が変わり、それに伴って考え方などが変わる場合もあるはずなのに、関係が壊れないのは本当にすごいです。憧れます。

 私は未婚なのですが、もし結婚して、この映画のような状態になってしまったら怖い。お互いに。結婚相手を選ぶ時は「今の状態」で見るんじゃなくて、「この人がこの先変わってしまっても好きでいられるか」を考えたほうがいいんだなと学びました。

 アラサーになって学ぶって遅いかも?(笑)

内緒話(軽いネタバレあり)

 予告編はポップなイメージかつ、本編の前半も思わずニヤけてしまうようなラブラブ展開が繰り広げられるのですが、ある時を境に、一気に雰囲気が重くなります。そしてどんでん返しもあったりして、消化が追いつかないままにエンドロールが流れはじめてしまいました。これは単純に好みの問題なのですが、展開が予想外すぎたので、私にとってはややもやもや感が残った作品でした。

 ただ、題材的にも、撮影、表現方法的にも、台湾映画を次のレベルに押し上げるのに大きな役割を果たす作品になるのではないかと思います。

 台湾映画の進化を感じる上では、多くの方に見ていただきたい作品です。

公式サイト・上映館

 怪胎 i WEiR DO 公式フェイスブック

 上映館・時刻表(Yahoo!奇摩電影)

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