「あの人も私/僕のことを好きだったらいいのに」
片思いの人は誰でも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
七夕バレンタイン(2020年は8月25日)に合わせて8月21日に公開された台湾映画『可不可以,你也剛好喜歡我』(Do You Love Me As I Love You)はそんな片思いの心境を描いた恋愛映画です。
幼なじみで友達以上、恋人未満の大学生男女の物語を軸に、サイドストーリーとして年齢、身分などが異なる3組の恋愛も合わせて展開されます。
目次
同じ大学に通う李助豪(ジューハオ)と田筱湘(シャオシャン)は幼なじみ。タロット占いが趣味でサバサバした性格の筱湘は実は助豪に恋心をいだいていて、ある日、タロットの結果を信じて告白することを決意します。しかし告白をしようとしていたまさにその時、仲良しのルームメイトで、その美貌でネット有名人となっている宋依靜(イージン)に助豪が告白してしまったのでした。
依靜は、「『MIリスト』(「くっつくのは不可能=ミッション・インポッシブル」だと思われている男女)に入っている3組をカップルにしたら付き合う」という条件を助豪に突きつけます。その3組とは、(1)美術教師の史東と史東に長年思いを寄せているジムのオーナー・劉志晾(2)嫌われ者の阿余と、阿余が片思いするイケメン学生・羅丹尼(3)ヤクザの親分・御姊(御ねえさん)と、御姉が見初めた哲学学科の学生・阿山。
助豪から助けを求められた筱湘は、複雑な心境ながらもミッションをクリアするために助豪を手伝うことにします。しかし、その過程で依靜との関係にも変化が生じ、筱湘は友情と愛情の狭間で苦悩することになります。 筱湘の片思いは果たして成就するのでしょうか――。
人気作家・肆一(ツーイー)の同名書籍を翻案した作品です。肆一は温もりのあるエッセイに定評があり、「癒やし系」作家とも呼ばれています。
主人公の助豪を演じるのは『KANO』(2014)で一躍有名になったツァオ・ヨウニン(曹佑寧)。台湾映画への出演はKANO以来となります。
筱湘役は、若手俳優を発掘、養成したドラマシリーズ「植劇場」出身で、『悪との距離』でも存在感を放ったチェン・ユー(陳妤)が演じます。
助豪と筱湘の間に割って入る依靜役はパトリシア・リン(林映唯)。モデル出身で、過去にはドラマ『HIStory:My hero』や映画『有一種喜歡』などにも出演しています。
このほか、シェリル・ヤン(楊謹華)やホアン・ジェンウェイ(黄健偉) 、 ルゥルゥ・チェン(程予希) 、 ハント・リウ(劉名凱)、リー・シン(李杏) 、チェン・イェンミン(陳彥名) 、 リン・ハーシュエン(林鶴軒) が脇を固めます。
監督はジエン・シュエビン(簡学彬)。今作が長編初監督作品です。
脚本は、2018年の大ヒット映画『悲しみより、もっと悲しい物語』(比悲傷更悲傷的故事)でメガホンを取ったギャビン・リン(林孝謙)が担当しました。
なんといっても、キャスティングが秀逸です。主演に曹くんを持ってきた上に、脇役にシェリル・ヤン、ホアン・ジェンウェイ、ルゥルゥなどの有名俳優を揃えています。鑑賞前は主演の2人にしか目が行ってなかったのですが、実際に作品を見てみてから、脇の豪華さに驚きました。
特に、シェリル・ヤンとホアン・ジェンウェイのカップルパートは、2人の演技力が光り、物語の支線であるにもかかわらず、一番ぐっと来て、印象に残りました。
そして、曹くんを巡る三角関係の女性2人の配役が素晴らしいです。学園のマドンナ・依靜を演じたパトリシア・リンは、どこから見ても、どのシーンでも美しいという圧倒的な美人です。彼女が出てくるシーンはそのお顔をガン見してしまうほどでした。どことなく、スー・チー(舒淇)を思わせます。たまに「学園のマドンナ」設定なのに、キャスティングが微妙な時もありますが、彼女には説得力があります。
その対比として、筱湘役のチェン・ユーは、友人にいてもおかしくなさそうな親しみのある外見です。自分が片思いをしているイケメンな幼なじみが、別格美人の友人を好きだと知ったら、そりゃあ勝ち目がないと思います。だから観客はついつい、筱湘を応援したくなってしまいます。曹くんの相手役にこの2人を選んだのは素晴らしいキャスティングです。
そのイケメンぶりで定評がある曹くん。今作で演じた助豪は、イケメンだけど押しが弱くて頼まれたら断れない…という優柔不断な性格の持ち主です。強気だったり、積極的だったりする女子たちに言われるがまま、されるがままで、その時に見せる子犬のような表情に、女性は心わしづかみにされること間違いなしです。可愛いです。
ルゥルゥ演じる変わり者の女子に熱視線を送られる羅丹尼を演じたハント・リウ、哲学学科の学生・阿山役のチェン・イェンミンの2人も、私は今作で初めて存在を認識したのですが、ポテンシャルの高さをうかがわせました。特にハント・リウは、腫れぼったい目が特徴で、角度によってはややブサイク寄り(失礼)の時もあるのですが、時々すごくかっこよく見えることもあり、スルメ系の魅力があります。注目したい若手俳優です。
登場する4組ともに、一方が相手に片思いをしているという設定から始まるのですが、大学生だったり、変人だったり、ジムインストラクターだったり、ヤクザの親分だったり、それぞれ年齢や身分は違うけれど、同じように片思いに悩みを抱えています。素直になれない気持ち、不安な気持ち、もどかしい気持ちは年齢、身分は関係ないということを感じさせます。
片思い中の人なら登場人物の思いに共感できるのではないかと思いました。
素晴らしい面もあった一方で、イマイチと思う部分もありました。
編集の問題なのか、脚本の問題なのかはわかりませんが、メインストーリーはシーンがぶつ切りかつ唐突につなげたところがいくつかあり、私としては、世界にあまり入り込めなかったのが残念でした。
この手の映画は、ハッピーエンドまでの過程を楽しむ作品だと分かってはいるのですが、メインカップルの物語については結末に対して「最初から分かってたじゃん…」と冷めた気持ちを感じずにはいられませんでした。私自身が冷静になりすぎたのかもしれないので、先程も書いたように片思い中の方や中高生だったら共感できるのかもしれません。
恋愛映画としては、涙あり、心温まるシーンもあり、最後はみんなハッピーエンドで普通に楽しめる作品です。単純に楽しく映画を見たいカップルや片思い中の人にはおすすめです。ただ、作品としては、継ぎ接ぎした感が強い点がやはり気になったのと、エンディングで尻窄みしてしまった印象があり、絶賛とまではいかないのが正直なところです。
星:☆☆☆(3)
タイトルの「可不可以,你也剛好喜歡我」。これをどう日本語に訳すかがなかなか難しい。直訳すれば「あなたもわたしのことをちょうど好きになってくれませんか」みたいな感じだが、こんな言い方、絶対にしない。どうすれば自然な日本語になるかというのを台湾人の同僚にも相談してみた。すると同僚は「そもそもこの中国語が不自然。こんな言い方はしない」と。なるほど。でもそうだとしても、翻訳するにあたっては、訳文を見た人は原文の都合なんて知らないんだから自然な訳にする必要があると思う。
英題は「Do You Love Me As I Love You」としていて、「可不可以」の部分は忠実に訳さずに「わたしと同じようにあなたもわたしを好きですか」のような感じにしているようだ。
ちなみに、このタイトルのフレーズは、映画の中でも実際に登場する。作中のセリフから、中文の「可不可以」の部分には片思いの、願うような切ない気持ちが込められているため、このニュアンスはなんとかして入れたい。
しばらく考えているけど、なかなかいい訳が思いつかない。もし日本公開されることになったら、訳者がこのセリフをどう訳すのかがすごく気になる。
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