海上モンスターパニック映画『海霧』 ぬるっとした展開が逆に面白い

 未知の生物が船を襲うスリラーパニック映画『海霧』が9月11日、台湾で公開されました。台湾映画としては珍しいパニック映画。「華語映画界初の海上スリラーパニック映画」という触れ込みで宣伝されています。

 鑑賞した結論から言うと、「大作にしたかったけど一歩及ばず、グダグダになった感が否めないけれど、ぬるっとしたゆるさがたまらなく面白い作品」です。おそらく、「駄作」という人も多いことでしょう。ですが、私は見終わった後、愉快な気持ちで帰途につけたので、満足しました。

 この記事では、『海霧』の面白さを紹介していきます。面白さを伝えるためにはネタバレが不可欠なので、以下はネタバレありです。内容を知りたくない方はご注意ください。

kuroqie
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2014年公開の韓国映画で『海にかかる霧』(中国語題:海霧)というタイトルの作品がありますが、内容は異なるため、リメイクではありません。韓国映画の情報はTwitterでフォロワーさんから頂きました。

作品情報

 冒頭でも触れた通り、一言で言えば未知の生物が遠洋漁船を襲うスリラーパニック映画です。過去の出来事や思惑によって船員同士がいがみ合う中、未知の怪物が突如現れ、船内はパニックに陥るーという物語が展開されます。

 主要キャストはサニー・ワン(王陽明)、チェン・レンシュオ (鄭人碩)、アリス・クー(柯佳嬿)、リー・リーレン(李李仁)、リエン・カイ(連凱) 、アジー・シエ(謝沛恩)、ジウコン(九孔)、チュンフォン(春風)ら。特別出演として、リー・カンション(李康生)もちょっとだけ登場します。

 サニー・ワンやチェン・レンショウといったちょいワルな見た目な出演者が揃う今作。この二人は見た目に違わず、血気盛んな船員を演じます。

 アリス・クーが演じるのは、謎の女(物語が進むと正体が判明します)。途中からの登場となるので、登場シーンはそんなに多くないですが、男だらけのむさ苦しい画が多い中、アリスの登場以降はぐっと華やかになります。役柄上、きらびやかな化粧なし、服装もきれいじゃないのですが、それでもあんなに美しいのはすごい。

 メガホンを取ったのは、チェン・レンハオ(錢人豪)監督。代表作にはソンビ映画『Z-108棄城』(2012)などがあります。

あらすじ

 主人公・阿傑(王陽明)は救難隊員だったころ、自分の向こう見ずな性格によって先輩を死に至らしめてしまい、妻の最後も看取ることができませんでした。それが原因で5年もの間自分を責め続け、やさぐれた生活を送っていましたが、ある日、愛する一人娘のため、心を入れ替えてお金を稼ごうと決心します。そこで、船長を務める亡き妻の父親(連凱)に頭を下げ、次の出航に乗船させてもらうことになったのでした。ですが、過去の出来事で、船員の中には阿傑をよく思っていない面々も。船員の阿泰(鄭人碩 )や副船長の阿丁(李李仁)、阿丁の手下などは、ことあるごとく阿傑につっかかり、挑発してきます。

 そんな中、未知の生物が船内に突如現れ、攻撃を浴びた船員は毒に感染し、命を落とします。一度は追い払うことに成功しましたが、次はさらに大きい生物が現れ、船内はさらなるパニックに陥っていくのでしたー。

 ここまでは中盤くらいまでの展開です。ちょっと見てみたくなってきたかも…と思った方は、ここで予告編をどうぞ。

 予告編だけ見ると、「スケールが大きくて、怖そう」と感じるかもしれませんが、これから見に行こうと思う方は、「大作」「怖そう」という印象を払拭してから行くことをおすすめします!この2つに期待して見に行くと、ガッカリするかもしれません。

 冒頭でもお伝えしましたが、この作品の良さは「ゆるさ」、言い換えれば「ツッコミどころ」にあるからです。スケール感は一部のシーンではありますが、怖さは皆無です。本編を見てから予告編を見返してみて、あまりの雰囲気の違いに驚きました。逆に言えば、怖いのが苦手な方も安心して見られる作品です。

 続いては、「ゆるさ」という視点でみたオモシロポイントを解説します。

作品のオモシロポイント

未知の生物が斬新

 この作品は、未知の生物の登場によってパニックに陥るのですが、この生物というのが、かなり意外な、言ってみればややショボいものでした。形状的にも、大きさ的にも。いちおう、どんな生物かは作品の英語タイトルに示されているのですが、ここでは伏せておきます。

 私は怪物といえば「ゴジラ」を想像してしまうのですが、それにくらべるとだいぶしょぼいです。

 だから、「えっ?これ??」と拍子抜けで、笑けてきました。

ぬるぬる感

 画面上でも、ストーリー展開でも、「ぬるぬる感」があります。(作品を見れば何を指しているのかわかっていただけるはずです)

 盛り上がりそうな、サスペンス的な要素はたくさん詰め込んであるのですが、結局何事もなく過ぎ去っていってしまった感が否めません。

 たとえば、阿丁とその手下たちは「取引」や「ブツ」、「あの小島」などといったセリフを発し、薬物の取引を企んでいることを匂わせるのですが、特にそれが物語の筋に大きな影響を与えることはなく。また、反旗を翻した阿丁は船長に「秘密裏に何をやってるか知ってるからな」など脅しの言葉をかけますが、結局のところ、なんてことはない内容でした。サスペンス感を出したいのだろうけれど、出しきれなかった感じがぷんぷん漂ってきました。

 極めつけは、最後に未知の生物と戦うシーン。それまでみんな逃げ回り続け、多くの人が犠牲になっているにも関わらず、対決の仕方があまりにもアナログかつ安直で、スケールが小さすぎて、「ええ~!」と笑ってしまいました。その退治の仕方だったら、もっと最初にできてたんじゃ…という。

 ストーリー展開のイメージ的には、ゆるやかに上昇していって、転換点がないまま、「ハイおしまい」みたいな感じです。

メッセージ性

 「大作を目指していたけどB級映画になっちゃった」という雰囲気の同作ですが、メッセージ性も込められているように感じました。

まずは、「一番怖いのは人」という点。

 パニックに陥った船上では、船員間での殺戮も繰り広げられます。船員の中にはとてつもなく乱暴な男がいて、なぜかいとも簡単に船員を次々と殺していくので、その展開にびっくりしてしまいました。きちんと数えてはいないのですが、怪物によって犠牲になった数に負けないほど、船員から殺された人がいました。

 最初から一致団結したら生物を退治できたかもしれないのに、いがみ合ったばかりに、仲間内で殺し合いをしてしまう。人間のそんな汚さが作品では描写されていたように思います。

 そしてもう一つは「核のゴミによる海洋汚染の問題」。

 未知の生物は、核のゴミのタンクが浮かぶ水域で登場します。また、「放射能汚染でこの水域には誰も近寄らない」「魚が獲れない」「汚染された水域の魚」などといったセリフも度々出てきます。

未知の生物に襲われたのも結局は人間のせい」というメッセージが込められているのではないでしょうか。もしかしたら制作側はここをもっと掘り下げたかったのかもしれません。

総評

 真正面から「良作」とは言えない作品ですが、味がある映画です。

 大作のレベルには達していませんが、こういった今までとは異なる題材のエンタメ映画が台湾で出てきた点については意味があるものだと思います(注:台湾映画と言っていますが、主な出資者は中国の愛奇藝)。また、海上のシーンはアン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」の撮影のために台中に建設した造波プールで撮影されたとのことで、この部分はリアリティー溢れた高クオリティーのシーンに仕上がっていました。

気になった方は、期待しすぎずに、肩の力を抜いてに行ってみてください。鑑賞後に感想を言い合える人と行くと、より楽しめると思います!

星:☆☆☆(3)

おまけ

 『海霧』の公式フェイスブックには、著名人からの応援コメント動画も掲載されています。その中には、最近あまり見かけなかったジェリー・イェン(言承旭)の姿も!なぜにこの場所で?というよくわからない場所で撮影されています。どこだろう?

 上手く埋め込みができないので、こちらからどうぞ。

※アイキャッチ画像はCouleurによるPixabayからの画像です。

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