台北映画祭で蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の最新作『無所住』(Abiding Nowhere)を見てきました。この作品は『行者』シリーズの10作目となり、米ワシントンで撮影されました。
『行者』シリーズは、真っ赤な袈裟に身を包んだ李康生(リー・カンション)が各地をゆっくりゆっくりと歩く姿を捉えた作品です。
蔡明亮監督作品は長回しのカメラワークが特徴的。一つの場面が固定のカメラで長時間ひたすら映し出されます。
蔡明亮作品は好き嫌いがけっこうはっきりと分かれると思うのですが、私は好きで、映画祭などで上映がある時はよく見に行きます。
私にとって蔡明亮監督作品の魅力は、「何もせずに映画の画面だけに集中するという非日常の空間を与えてくれること」。人物がただ歩いているだけ、ただ何かを食べているだけ、ただ料理を作ってるだけ―。動きもストーリーもない映像を静かな空間でひたすら眺めていると、脳みそがすっきりしてくる気がします。
私にとっては映画館で蔡明亮作品を観る行為は一種の「瞑想」。もちろん眠くなったり、「この後何食べようかな」と雑念が浮かんでくることも多々あるのですが、「あっ、今度はこうしてみよう」とか新たな閃きが生まれることもあります。
家でのんびりとネトフリで映画とかドラマを見たり、映画館で大迫力のアニメ映画を観るのも大好きですが、蔡明亮作品には蔡明亮作品でしか得られない感覚があります。
今回の上映後トークで蔡明亮監督は「一枚の絵画、一つの詩のように映画を味わってほしい」と話していました。本当に「味わう」という言葉がぴったり。
海外の美術館でも何度か上映されたことのある蔡明亮作品。来年には台湾の美術館での上映も予定されているそうです。
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