去年末から今年初めにかけて台湾で放送され、「神劇」とまで言われるほど好評を博した台湾ドラマ『時をかける愛』(原題:想見你)。先日発表されたテレビ番組賞「電視金鐘奨」のノミネーションでも、連続ドラマ作品賞など6部門で候補に選ばれました。
もともとは台湾ドラマにハマったのがきっかけで台湾に来た私ですが、実は最近はあまり台湾ドラマを見ておらず、この作品もリアルタイム放送時は評判になっているのは知っていたものの、「どうせ重いんでしよ」(注:最近注目される台湾ドラマは社会性が高く、題材が重めなものが多い)と疑ってかかってスルーしていました。放送中も、チャンネルを変えていた時にちらりと見ていたのですが、特に興味は持てず…。
ところが、放送終了後、仲の良い友人が見始めたという話を聞いて、とりあえず1話だけ見てみよう!と思って見てみたら、やめられない止まらない状態になってしまったのでした。
この作品は「見だしたら絶対に面白い」と保証します。日本でもDVDレンタルが開始されているほか、ちょうどホームドラマチャンネルで放送中、かつ、動画配信サービス「U-NEXT」でも9月1日から配信が始まったとのことなので、「見ようかどうか迷っている」「話題になっているのは知っているけど見るまでに至っていない」という方向けに、作品の魅力を紹介します。
あらすじ以外は、物語の内容には極力触れないように配慮して書きました。ネタバレなしなので、安心してご覧ください。
目次
この作品には推理要素があるので、可能であるならば、ストーリーに関して予備知識は一切なしで見ていただきたいです。そのほうが絶対に、作品の物語を楽しめると断言します。実際に私は予備知識一切なしで見て、予想できない展開に魅了されてしまいました。
ですが、「どんな話が知りたい!」という方もいらっしゃると思うので、簡単にあらすじと作品情報をご紹介します。(このあらすじは、1話の後半までの展開です。この後からが面白い部分なので、その直前までで止めています)
2019年、IT企業で働くキャリアウーマンの黄雨萱(ホアン・ユーシュエン)は、仕事上では気丈に振る舞っているものの、2年前に行方不明になった恋人・王詮勝(ワン・チュエンシェン)の姿を追い求める日々を過ごしていた。そんな中、占い師から「32」の数字に気をつけるよう言われた雨萱。占い師を全く信じていなかったが、ついつい32番のバスに乗ってしまい、そこで偶然にも、詮勝にうり二つな人物を見かけたのだった。そして、同僚が開発した「自分とそっくりな人が見つかる」というアプリを通じて、詮勝が自分とそっくりな女の子といる写真を発見して――。
主演は台湾ドラマ好きの方にはおなじみのアリス・クー(柯佳嬿)と、最近台湾で最も勢いがある次世代俳優と言って過言でないグレッグ・ハン(許光漢)。2人はともに、一人二役を演じます。また、注目急上昇中のパトリック・シー(施柏宇)もメインキャストの一人です。後半では、『恋の始まり 夢の終わり』でレイニー・ヤン(楊丞琳)の相手役を好演したイェン・ユーリン(顔毓麟)も物語の主軸に加わっていきます。グレッグとパトリックについては、後の部分で詳しく紹介します。
このほか、ジョアンヌ・ツァン(曽之喬)やエイリアン・ホアン(小鬼、黄鴻升)など、これまた台湾ドラマでおなじみの顔ぶれも、登場シーンは多くはないですが重要な役で登場します。
台湾では、米FOXネットワークス・グループと台湾の制作会社が共同で制作したドラマということでも注目を集めました。最近はネットフリックスやHBOなども台湾でのドラマ制作に参入しており、国際共同制作が盛り上がっています。今作でFOXと手を組んだ台湾の制作会社は、『イタズラな恋愛白書』(我可能不會愛你)をはじめ、数々の人気ドラマを生み出している「三鳳製作」です。脚本は[『結婚なんてお断り!?』(必娶女人)のジエン・チーフォン(簡奇峯)、リン・シンホイ(林欣慧)コンビが手掛けました。
参考 福斯傳媒與金鐘團隊三鳳製作共同打造優質魔幻愛情影集《想見你》衛視電影台続いては、私が考える「時をかける愛」を名作ドラマにした3つの要素を紹介していきます。
このドラマ、1話の終盤間際まではいたって普通のドラマです。ですが、最後の最後で「ええっ!?」と思わせるシーンが差し込まれ、視聴者は新事実を知ることになるのです。(前提知識のない)視聴者は、どんでん返しをくらったような気分になり、混乱します。そして、次回が見たくてたまらなくなります。最初の数話はこの展開が毎回繰り返され、完全にとりこになってしまうのです。この1話の最後のシーンの驚きは、見た人じゃないと分からないので、本当にどうか、1話だけでも最後まで見てほしいのです。
キャストの演技の上手さもポイントです。特に、一人二役を演じているアリス・クーは、本当に2人の人物がいるように思えるほど、表情、発声、姿勢などで2人の人物を演じ分けています。失礼ながら、「アリス・クーってこんなに演技上手だったんだ!」と彼女のすごさを今作で知りました。
そして、この作品で最も輝きを放っていたのがグレッグ・ハン。まずとにかく、素晴らしくかっこいいのです。あのきらきらした太陽のような笑みを見せられてしまったら、好きにならないほうがおかしいです。でも、ただかっこいいだけではもちろんありません。今作で印象的だったのは、繊細な感情表現の上手さ。ヒロインに対するわずかな反応の違いから、自身が演じる人物の感情を表現していて、それによって推理要素も引き立てるという素晴らしい演技を見せていました。
アリスとグレッグ、この2人の高い演技力がなければ、この作品の推理要素がこれほどまでに視聴者を引きつけることはなかったと言って間違いないです。
この2人の演技のすごさは、本当はネタバレをしたほうが伝えやすいのですが、ここでネタバレはしたくないので、控えておきます。
もう一人、忘れてならないのはパトリック・シー。パトリックが演じる莫俊傑(モー・ジュンジエ)は、グレッグ扮する男子学生の親友。寡黙で控えめ、ちょっと陰があるといった人物で、グレッグの役と強いコントラストを織りなしています。パトリックのこの抑えた演技があったからこそ、グレッグの役柄の魅力が引き立っていたように感じました。
グレッグ、パトリックの好演によって、女性視聴者は「自分がヒロインだったらどっちを選ぶかな」と妄想したくなること間違いなしです。
ちなみに私はグレッグ派です(聞かれてないけど、言います)。
このドラマでは、音楽も非常に大きな役割を果たしています。まずは、物語のキーであり、繰り返し流れるウーバイ(伍佰)の「LAST DANCE」。1996年リリースのアルバム「愛情的盡頭」の収録曲です。すごく耳に残る音楽で、ドラマを見ている期間、そして見終わってからしばらくも頭の中をぐるぐる回っていました。
このほかにも、物語の設定とリンクさせるように、1990年代の楽曲が挿入歌として複数使われています。例えばメイデイ(五月天)の「擁抱」(1999年)やチャン・チェンユエ(張震嶽)の「秘密」(1997年)など。音楽でも時代を感じさせている点から、制作側のこだわりを感じます。
そして、重要なシーンで流される主題歌の「想見你想見你想見你」。この曲はメロディーはもちろんですが、歌詞が物語とぴったり合っていて秀逸です。例えば「過去も未来もただあなたに会いたい」「もし別の時空、別の身体だったら、別の結末に出会えるのか」など、登場人物の心境を反映するフレーズが散りばめられています。台湾ドラマで、ここまで物語の世界観を表現した主題歌って今までなかったのではないでしょうか。少なくとも私はぱっとは思いつきません。この曲は人気バンド「八三夭」(バーサンヤオ)の楽曲です。八三夭の音楽性の高さを知れたドラマでもありました。
このドラマは脚本、役者、音楽―この3つの要素が全て卓越していたからこそ、これほどの良作になったのではないかと思います。そして、作品に携わる方々の、作品への意気込みがひしひしと感じられました。
最近の台湾ドラマの話題作といえば、「悪との距離」(我們與惡的距離)や「次の被害者」(誰是被害者)など、重め、暗めの題材を扱ったものが多く、「社会派」がトレンドになっているように感じます。そんな中、「時をかける愛」はメッセージ性を大々的に打ち出してはおらず、どちらかといえば偶像劇(アイドルドラマ、トレンディードラマ)寄りの作品です。偶像劇では、近年はヒット作がなかなか生まれていなかったので、「時を~」のような作品がヒットしたことは、台湾のドラマ界にとって大きな刺激になったのではないでしょうか。というか、そうなっていてほしいと期待したいです。これを機に、気楽に見られてかつクオリティーが高い台湾ドラマがもっと多く登場してくれればいいなと、偶像劇から台湾ドラマにハマった私としては強く願っています。
本当は上記の「キャストの演技」に関してネタバレでの紹介や、最終話を見終えた後のネタバレ感想も書きたかったのですが、時間切れのため、今回は断念します。後日追記する予定です。
(2021年2月1日修正)
ネタバレ全開の考察&感想記事を追加しました。全話見終わった方はよろしければ合わせてどうぞ。(2021年2月1日追記)
【ネタバレ注意】『時をかける愛』複雑な時間軸を考察 謎をひもとく『時をかける愛』に関して、過去にはこんな記事(↓)も書いたので、よければ合わせてご覧ください。(ただ、若干ネタバレがあるので、これから作品を見る予定の方はご注意ください)
台湾ドラマ『時をかける愛』(想見你)に見る台北の住宅事情 F4.tv『時をかける愛』
詳細な作品情報やキャスト情報についてはこちらをご覧になるのがおすすめです。
U-NEXTではなんと、1話だけ無料配信中!気になっている方は、この機会に是非!!!(決して回し者ではありません。日本国内限定で、海外からは見られないようです)
↑のミュージックビデオは横浜で撮影されたとのこと。なんとなく嬉しいです。
アイキャッチ画像はPexelsによるPixabayからの画像です。
作品を見た方には、私がなぜこの画像を選んだのかきっと分かっていただけるはず!
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