台湾の恋愛映画にまた新たな名作が誕生しました。Netflixで8月から全世界での配信が始まった『つかみ損ねた恋に ディレクターズカット』(我沒有談的那場戀愛)は、恋愛で悩みや後悔、心残りを抱える30代女性には共感できること間違いなし!の、笑えて、泣けて、そして元気が出る作品です。この記事では作品情報とあらすじ、感想などをご紹介します。
実は見る前は期待していなかったのですが、良すぎて連続で2回見て、次の日も1回見ました。1時間半ちょっとという短めの長さでさっくり見られるのもポイントです。
目次
会社で中間管理職として部下をまとめる郭勤勤(艾怡良、イブ・アイ)は、仕事はできるが無愛想で、「自分はみんなから嫌われる」と考えてしまう自己肯定感低めの33歳シングル女性。仕事に生きる勤勤の前にある日突然、フェイスブックでブロックし続けていたお調子者の男・南之仰(吳慷仁、ウー・カンレン)が現れる。性格は正反対であるものの、同じく自分に自身がない之仰とのやり取りを通じて、勤勤は、心ににひっかかり続けている5年前の「つかみ損ねた恋」と自分自身の心に向き合うのだったー。
勤勤がかつて思いを寄せていた元同僚・趙書維に扮するのは傅孟柏(フー・モンボー)。勤勤の部下で、言いたいことは何でも言える強気な女性・黄小喵を9m88(ジョウエムバーバー)が演じました。
監督は、『先に愛した人』(誰先愛上他的)の徐譽庭(シュー・ユーティン)と許彥智(シュー・イェンジー)。同作のスタッフが送る新作です。台湾では2021年の旧正月映画として公開されました。
10月に受賞作が発表される今年の台北映画賞では、主演男優賞にウー・カンレン、主演女優賞にイブ・アイ、脚本賞にシュー・ユーティンがそれぞれノミネートされています。
ちなみにNetflixで配信されているディレクターズカット版は、劇場公開版を再編集したものとのことです。
30代独身女性(※こじらせ女子の自覚あり)の筆者が「わかりみが深い…」と共感しまくったポイント2点を紹介していきます。※若干ネタバレはありますが、鑑賞時の味わいに影響する肝心な部分への言及は避けています。
その1.勝手に悪い妄想をしてシャットダウンしがち
この作品は、フェイスブックの「ブロック」を解除することから物語が展開します。作品の中で勤勤は、とある出来事をきっかけに、片思いの相手・書維をブロックし、一切の連絡を絶ちます。でも彼をブロックしたのは彼自身に直接何かを言われたり、傷つくことをされたりしたわけではなくて、自分に対する自身のなさによって勝手にネガティブな妄想を巡らせてしまったから。好きな人をブロックしたことで、自分の心にも封をしてしまった勤勤。でも、その後、ブロックを解除する勇気を持った時にはじめて、真実は別のところにあって、自分の幸せを自分で手放してしまったことを知るのでした。
勝手に否定的な妄想をしてしまって自分からシャットダウンしてしまうってわかりみが深すぎて…。
その2.自分が「してもらうこと」に意識が向きがち
勤勤は典型的なこじらせ女子ですが、この作品にはもう一人、こじらせ女子ではないけれど、ものすごく共感できる女性が登場します。
それは之仰の元妻・貝佳です。
CMディレクターをしていた之仰が、自分の夢である映画製作のために家を売ることを貝佳に話すシーンでこういう会話が繰り広げられます。
南:一緒にいるだけじゃ不満なの?
妻:私は生活のために、CMディレクターを続けてほしいだけ。これは欲張りなの?
南:じゃあ僕は?僕の心は?
妻:それって、私達と一緒にいるとあなたは不幸せってこと?
南:じゃあ、きみに幸せを感じさせるのは「僕個人」じゃなくて、僕が「何をするか」ということなの?
「自分たちの今の生活水準を守るために、今の仕事を続けてほしい。そう願うのは当然のこと」だと考える貝佳。一方で、「自分の夢を追いたい。つつましい暮らしでも、一緒にいられればそれでいいじゃないか」と考える之仰。貝佳は之仰のことを「身勝手な男」と思ってるし、之仰は「なんでそんなに欲張りなんだ」と思っている。2人とも愛があるのは間違いないんだけど、ベクトルが全く違うから分かり合えない。だから之仰は「自分の人生も無駄にしないし、相手の人生も無駄にしたくない」との考えから、別れを選ぶことにしたのでした。
これもわかりみが深すぎて…。之仰から「僕が『何をするか』が大事なのか」的なことを言われて、貝佳はすごく呆れたような、怒ったような、なんともいえない表情をするのですが、この表情が示すとおり、貝佳にとってはそういうことではないのです。ただ単に、家族の今の生活を守るために自分が最善だと思う選択肢を提案しただけなのです。貝佳自身は「無理な要求をしている」と本気で一ミリも思っていなかったと思うのですが、でも之仰の言う通り、「何かしてもらえること」が当たり前だと無意識に思っていて、それを之仰に指摘されたことで自分の「無意識」に気付いたんじゃないかなと感じました。
私自身も最近、「このまま老人になるまで独り身だったら…」という他愛のない会話の中で、「パートナーとは『何かをしてくれる人』」と自分が無意識のうちに思っていることを気付かされて心にグサッと来たという出来事があったのですが、之仰のセリフはそれに重なる部分があって、心に深く突き刺さったのでした。
自分に自信がなくて、自分のことはそんなに好きではないけれど、毎日必死に生きている。『つかみ損ねた恋に』はそんな、現代社会にはどこにでもいそうな女性が、自分の心と向き合うことによって前を向いて歩いて行こうとする姿を描いた作品です。
「所以我們要好好珍惜每一天」
(だから私達は、毎日を大切に生きなくては)
自分を自ら殻の中に閉じ込めてしまうこともある。でもちょっと勇気を出して、自分を閉じ込めていた、自分の中にある何かと向き合うことで、未来は少しだけ明るく開けていくかもしれない。そう思わせてくれた一作でした。
- 殻に閉じこもりがちなこじらせ女子
- 恋愛をする気持ちを取り戻したい人
- 過去の恋愛に心残りがある人
この作品は、バラエティー豊かで豪華な出演者にも要注目です。
徐譽庭&許彥智コンビの前作『先に愛した人』に主演したロイ・チウ(邱澤)や謝盈萱(シエ・インシュエン)が特別出演しているほか(特に今作での謝盈萱の演技は相変わらずすごく良い)、徐譽庭作品にこれまで出演したことのあるアリエル・リン(林依晨)やレイニー・ヤン(楊丞琳)、アンバー・アン(安心亞)などが声で出演しています。
主演の吳慷仁はこの作品のために20キロの増量をしたそうで、普段よりだいぶふっくら。現在放送中のドラマ『斯卡羅』ではその激ヤセ姿が話題になっていますが、この2つの作品の吳慷仁を比べると、同じ人物とは思えないほどの変貌を見せていて、その役者魂に驚かされます。
また、女性主要キャストの艾怡良と9m88は音楽畑出身で、2人とも本格的な演技に挑戦するのは実は今作が初めて。特に艾怡良は、こじらせ女子の心の葛藤や素直になれないもどかしい気持ちを絶妙に表現し、映画初出演、初主演とは思えないほどの見事な演技を披露しています。この2人の演技にも注目です。
ちょい役ですが、勤勤の部下役の張耀仁(チャン・ヤオレン)、之仰の元妻役のリウ・ロンジャー(劉容嘉)、営業部のぶりっ子女子役の嚴正嵐(ベラ・イェン)の演技も印象に残りました。この作品は主要キャストはもちろんのこと、脇役のキャラクターまでが魅力ある人物に仕上がっていることによって、さらに深みが加わったように感じます。
音楽を担当したのは李英宏(リー・インホン)。艾怡良と9m88が歌う楽曲も挿入歌として使われます。
音楽もとてもかっこいいので注目してみてください。ちなみに作品中に何度も流れる「諾言」(Promise)という曲は1970年代の名曲。作品中では林美秀、李英宏、9m88の3人がそれぞれ歌っているバージョンが流れされ、シーンに応じて雰囲気を高めています。
艾怡良が歌う主題歌「我這個人」も名曲です。
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