台北映画祭で上映された『明日之子』。一時も目が離せない、とても強いエネルギーを持った作品でした。
主人公は身よりもなく、お金もない、未婚で妊娠して臨月に入った女性作業員の阿菲。一度は子供を養子に出すことも考えつつも自分で育てることを決意した途端、3ヶ月分の料金をすでに振り込んだベビーシッターと連絡を取れなくなり、大ピンチ!!というところから物語が始まります。失業の危機にも見舞われつつ、行方不明のベビーシッターを必死になって探す―という物語です。
2016年の台北映画祭で上映された『亮亮與噴子』での演技がとても印象的だったエンジェル・リー(李雪)。今作でも、めちゃくちゃリアリティーのある演技を披露しています。
(以下、ネタバレ含む感想です)
作品の中で阿菲の生きるの環境はとてもハード。両親はすでに離婚していて、唯一連絡を保っている母親も新たな家庭を持っていて、全く頼りにできない。働く工場は、労基法違反だらけで、産休を労基法通りに取ろうとしたらクビにされそうに。お腹の中にいる子供の父親とは恋人関係ではなく、別の女がいる。それに加えてお金を払ったベビーシッターが失踪するものだから、だいぶ大変です。
でも、母親に約束をふいにされても、失踪のベビーシッターの紹介元である勤務先の上司から逆ギレされても、子供の父親から無下にされてもあんまり怒らない。ただひたすら「わたしはベビーシッターを探すの!」と訴え続けます。しかも、力になってくれそうな、同じくベビーシッター失踪の被害者の女性と出会った時は、警察への通報を阻止すべくその女性のスマホを奪うという暴挙に出るというありさま。そして、阿菲の労働環境の違法に気付いた労働局の職員から手を差し伸べられても「大丈夫です」と支援を拒否するのでした。
正直、私はだいぶ恵まれた環境でぬくぬく生きている人間だと思うので、阿菲にはあまり共感できず、「えっ、なんでそんな男と子供作るの??」「えっ、せっかく協力してくれそうな人と出会ったのになんで敵に回すようなことをするの??」「普通に通報したほうがよくない??」と同情できない点が多々ありました。
でもよくよく考えると、本当にピンチな時って、余裕がある人から見た「合理的」な対応ができなくなるのでしょう。残酷だけど、生きる環境って本当に大事。
この作品で李雪は7月6日に授賞式が行われる台北映画賞の主演女優賞にノミネートされています。
公共テレビの人生劇場ですでに放送された、おそらくテレビ映画に分類される作品で、上映時間は82分と比較的短めなのですが、82分の間、ひたすらずっと阿菲が出てきます。観客の私は阿菲の、私には共感、理解しずらい行動に、「なんで?なんで?」と感情が揺さぶられ続け、気付けば一度も阿菲から目を離すことなく、あっという間にエンドロールを迎えました。
李雪の、阿菲になりきった演技には脱帽。台北映画賞の受賞結果が楽しみです。
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