娘と母の関係描く台湾映画『小雁與吳愛儷』 じんわりと心に染み入る 

トム・リン(林書宇)監督の『小雁與吳愛儷』。『夕霧花園』(2019)以来、5年ぶりの新作です。

私にとっては、トム・リン監督といえば『九月に降る雪』(九降風)。当時東京国際映画祭で見た時に覚えた感動を超える映画は未だにないかも?と思えるほど、めちゃくちゃ好きな作品です。

今回の『小雁〜』は、トム監督の作品では『九月〜』に次いで好きな作品になりました。とても良かった。

この作品、簡単に言えば、娘と母親の物語。あらすじは、台湾の映画サイトなどを見ると書かれているんですが、なるべく前提知識がない状態で見たほうがより物語を味わえる作品だと思うので、この記事ではあらすじは紹介しません。

全編モノクロで、その点も想像力を掻き立てられます。

娘役は近年、映画やドラマでの活躍が目覚ましいキミ・シア(夏于喬)。キミはトム監督の妻でもあります。この作品の彼女の演技は素晴らしかった。こんなに演技上手かったんだ!と、驚かされました。ちなみにキミは今作で金馬奨主演女優賞にノミネートされています。とても納得。

母親役はベテランのヤン・グイメイ(楊貴媚)。彼女はいつ見ても安定感抜群。最近見た台湾ドラマ『生きている間』(有生之年)もそうですが、彼女に母親役をやらせておけば間違いないと思ってしまいます。台湾の、どこにでもいそうな、ちょっと(じゃないかもしれないけど)自己中心的だけど、心の弱さもあるおばちゃんという役を演じるのがうますぎる。

キミを手助けする人として登場するのは、バンド茄子蛋のボーカル・黃奇斌。彼の演技もめちゃくちゃ良かった。ちょっと田舎出身(作品の舞台は高雄・美濃)の、ちょっとやんちゃっぽいけど優しい青年っていう感じが出てて、キミと阿斌の共演シーンはなんかほんわりとした。

そして、母親の彼氏役はサム・ツォン(曾國城)。

私が鑑賞した回は、幸運にもトム監督とキミが上映後に登場する回だったんですが、トム監督の話を聞いてようやく気付きました。

キミと曾國城って、『型男大主廚』のコンビやん!!!!

きっと日本人の大半の方はこの番組を知らないと思うので補足しておくと、『型男大主廚』はかつて放送されていた大人気料理番組です。この番組、私の大学院生時代(2011年〜14年)にはめちゃくちゃよく見てました。懐かしい…。

と話は逸れましたが、それぞれの俳優がいい味を出していました。

先ほど少し金馬奨の話題に触れましたが、同作は主演女優、助演男優、助演女優、脚本、撮影、美術、コスチュームデザイン、編集の8部門にノミネートされています。

トム監督はQ&Aで、金馬奨にはノミネートされなかったものの、音響の部分に関する細かなこだわりも紹介してくれました。


作品の中でトイレを流す音とか、生活音がけっこうよく聞こえるのですが、それはなぜかと、映像がモノクロで、その場面が夜なのか昼なのかぱっと見分かりにくいため、音によって時間帯を表現したとのこと。

そんな部分まで配慮してるなんて、すごい。

物語はわりと淡々と進みますが、最後にはほんのりと涙が出てくるような、そんな締めくくりでした。

トム・リン監督作品だから、日本での上映の機会もきっとあると思うので、ぜひ観てほしいです。


ここからは、作品を見終わった人にだけ読んでほしいネタバレ感想です。(次のページに続く)

予告編

『小雁與吳愛麗』予告編
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